抗がん剤治療

治療

本日は診察日。いつものように朝6時すぎに出発します。東関道・湾岸線上りは、この時間すでに渋滞しています。8時頃の出勤時間ピークのほうが空いていたりします。多くの人が朝早くから働いているんだな〜。

我ながらドラマのような日々がずっと続いています。「生きてる」感が満載のドキドキの日々です。本日も抗がん剤治療をどうするか、という最も悩ましい問題を抱えての診療です。

先日の長野での私にとって奇跡の2公演の高揚感と冷静さをキープしながら血液検査。なんと白血球が4000という高い数値です。担当医もとても喜んでくれました。キビシイ体調・天候の中の移動、演奏でしたが、身体もこころも本当に喜んでいたのです。この数値がまぎれもなく証明しています。大自然、旧友との再会・共演、新しい出会いがどんなにニンゲンにとって大事なものかまざまざと数字が表したように思います。

担当医としては本日も予定通りジェムザールを、とお思いになったことでしょう。

が、私は思うところを正直にまっすぐ伝えました。

「私の人生・寿命に対し覚悟はできています。残りの時間は人より限られているので、なんとかやりたい仕事をやりたい。多少、命が縮まっても良いです。なるべく副作用の少ない状態でやりたい。具体的にはレコーディングを2種類(バッハ六番など・新たに作った歌)、一冊の本の執筆、『私の城』のコントラバス奏法ハンドブック。レコーディングのためには左手の痺れ・硬化・浮腫みをなるべく少ない状態でなければ不可能。」(タンツテアター「私の城」はこれからも続いて欲しいので私の代わりを育てたいのです。)

担当医はすぐに本意を深く理解してくれ、本日の抗がん剤治療は中止にして、来週CTスキャンを撮りましょう、その結果をみてこの先の治療を選択をしましょう。あなたの優先順位を尊重します、と言ってくれました。感動しました。

自分の命が、だんだん自分のものでなく、共有の何かのためにという方向にあるような気がします。

言わずもがなの事もついでに書きます。

不肖この私も世の中の一般の競争からドロップアウトした人生を歩んできました。自然に「反権力・反権威」が当たり前です。生まれついてそうだったためにドロップアウトしたとも言えるかもしれません。権力にものを言わせ、コネや利権に基づき金儲けをするなんて悪の権化のように今でも思っています。

「抗がん剤は製薬会社の金儲けのために日本でだけ使われている」とか「WHOが全面禁止した」とか「抗がん剤の効果はないと○○が認めた」とか「アメリカでは使われてなく、余ったものを日本でさばいている」などのネットに蔓延する話を、アメリカの軍需産業と同じように信じていました。

しかし、そういうことはないのです。ありえません。それならば癌研や癌センターなどは即刻潰れているはずですし、訴えられているはずです。日本の標準治療は世界的にトップレベルとのこと。有明癌研建物内での表示は日本語・英語・中国語・ロシア語の順に書かれています。専門家はそういうことにいちいち反応する気も時間もないので、勝ち誇ったように蔓延してしまう。

確かに、製薬会社と現代医療現場は生き馬の目を抜くような激しい競争です。勝者には莫大な利益があるのでしょう。多少の時間差はあるでしょうが、多くの人に効果的な治療は保険適用されて生き残ります。生き残るべく懸命に標準治療をしている患者さんは世界中に何万人といます。治った人も何万人もいるのです。標準治療で治った人はあまりその経験を語りません。病院に見捨てられた?患者さんが代替治療で奇跡的に治った、という話はネットでも本でも話題になります。多くの人の興味も惹きます。

副作用に苦しみながら、確率の低い治癒を成し遂げた人が多くを語らないのは、戦争に行った人が戦争経験を語らないのと似ている気がします。治った治ったとはしゃぐには辛すぎ、うまくいかなかった同志たちに失礼のないようにしたいのです。