小林裕児さん 1

 

私ほど友人知人に恵まれているものはないのではないかと思うことがあります。特別な才能も教育もないのに今のような活動が続けられるのは、唯一その友人・知人関係があればこそだな、と心より思います。それも、超のつくような優れた人ばかりなのです。

音楽関係でないところにも多くいらっしゃいます。3月11日にワークショップゲスト回の小林裕児さん(画家)もその中の代表です。お知り合いになって私の人生はなんと豊かになったことでしょう。

質・量ともに多くの豊かな経験をさせていただきました。今、ちょっと思い出しても呆然とするほどのもので、ハードディスクのあちこちに混在する写真・映像などを取り出そうにも、あまりにも大量で現在の気力・体力ではほとんどムリなことがアッと言う間にわかりました。

始まりは博多の画廊香月の紹介でした。同画廊で何回かLIVEをやったことがあり、画廊の人気作家であった小林さんを紹介してくれたのです。(思えば安元亮祐さんも堀越千秋さんもここの作家、ザイ・クーニンは日本初の個展をここでやっているのです。)

私がミッシェル・ドネダを招聘してのツアーの模様を収めたCDのジャケットを探していたときです。このツアーは西日本を回り多くのLIVEをしました。デュオで始めて東京を出て、京都では姜泰煥さん、姜垠一さんが入り、広島からは鄭喆祺さんが入り、九州からはザイ・クーニンが加わり、坪井紀子さんもくわわり、録音の小川さんも合流し、車2台、旅芸人一座の様相でした。私の関係した人達をオープンに迎える形もこの頃確立したようです。美術もダンスも音楽も録音もスタッフも聴衆も伝統も現代も前衛も全員同格。きっちりと計画立てて行ったのではなく、流れに沿ってその場で決まって即実行。今では怖くてとうていできない、青春の無茶苦茶な荒ぶる精神の発露かもしれません。

このツアーから何枚かCDが生まれました。ミッシェルとのデュオ「交感@星誕音楽堂」、齋藤真妃の映像Spring Road、沢井一恵を加えたトリオLive at Egg Farm(アメリカ盤)、そしてPagan Hymn(異教徒達の賛美歌)でした。Pagan Hymnは私自身のプロデュースだったのでジャケットを探していました。

そこで紹介されたのが小林裕児さんでした。銀座でお目にかかった時、こちらはいつもの安物普段着、方や特注デザインされたであろう洒落たいでたち。いろいろとお話をさせていただき、しばらくするとデザインが送られてきました。

いくつかの既成の作品のサンプルを送ってきて「そのなかから好きなのを選んで使っていいよ」というスタンスだろうと思っていたのですが(失礼ですね)、CDケース、盤面の実寸でしかも何パターンかを新たに描いて送ってくださいました。ビックリというか、強い主張を感じ、こちらの襟を正すしかない状態に追い込まれたという感じでした。

すべてが「具体的」。すぐに思い当たったのはもう一人の知人画家、大成瓢吉さんでした。「抽象なのですが、すべてが具体的なのです」という説明を受け衝撃でした。

雰囲気などではない、という強い主張。それは、想像力や空想、人智を越えたものを否定するのではなく、結果としての「自分を越える」ことのために、いい加減なところを避けて自分を少しでも創作へ追い込むための考え方であることはすぐ分かりました。
絵画でも音楽でもない、その隙間の領域に甘い「夢」を描くのは、「逃げ」なのだ、絵画を究め、音楽を究めたところで初めて成り立つコラボレーションをこそめざそうではないか?と問われたのです。それは、「即興」はすべてが可能なのだから即興にすべてを託す「ふり」をして「逃げる」のは避けようではないか、できることは尽くそうではないか、すべてより大きく楽しむために、より大きく羽ばたくために!と言われているようでした。

即興=自由=何でも許され=何でもできる、というお花畑のかけらをまだかすかに持っていた時期でしたので、とても強いメッセージとして受け取り、その後の指針としました。

NHK・BSで「即興」に関する番組を5日連続生放送で担当することになり(なんという良い時代だったのだろう)毎回ゲストのお一人としてお招きしたのもそのころでした。

共演者:ジャン・サスポータス、ザイ・クーニン、セバスチャン・グラムス、バール・フィリップス、ミッシェル・ドネダ、レ・クアン・ニン、フレデリック・ブロンディ、オリビエ・マヌーリ、岩下徹、熊坂路得子、乾千恵、喜多直毅、佐藤芳明、佐藤佳子(般若佳子)、西陽子、上村なおか、東野祥子、黒沢美香、成河、広田淳一、内田慈、矢萩竜太郎、新生会、まだまだいます。

CDジャケット「Pagan Hymn」「浸水の森」「朱い場所」「6 trio improvisation with Tetsu & Naoki」「Travessia」「Bass Ensemble GEN311」