インプロのリハーサル?

インプロのリハーサル?
フレデリックさんは当初、本番前の4日間、10:00〜17:00のリハーサルを提案してきました。日本人ミュージシャンはみんなビックリ仰天、あっけにとられました。それならやらない、として辞退した人もいました。私は雰囲気を察知して「長すぎるのでは?」と日本での通常を知らせ、3日間3時間半ずつになりました。日本ではインプロのリハーサルは通常やりません。
文化的な常識も大分違っています。日本だと、リーダーが言うことに従うのが掟です。しかし、例えば、フレデリックさんは、私の現在の体調を知っているので、「いつ来ても、いつ帰ってもいいよ」ということであり(2日間参加しました)、多忙で1日しか出席できない人もOKなのでした。
何十時間もインプロのリハーサル?そんなの絶対おかしいよ、と判断することは容易です、そして「正しい」。しかし、その「絶対に正しい」と確信した途端に「失うもの」も意識してみると意外なものが見えてくる、長年やってくるとそういうところに目がいきます。
日本のインプロは「セッション」が通常。レギュラーグループを作り何年もLIVEやツアーをやり続けることはほとんどありません。出会い頭の緊張・わくわく感、本番での駆け引きと高揚を何より大事にする気風なのでしょう。「出会い系・初共演」を大事にするライブハウスもあります。
1つには、社会的な立場・認識の差があるでしょう。別投稿でも書きましたが、アンテルミッタンなどで社会的・経済的に保証されているフランス人インプロバイザーは、自分の仕事に誇り高く、理想を追求できます。今回にしてもアンスティチュ・フランセの京都の施設がブロンディ一家に半年のレジデンスを与えているのです。フランス語学校が応援しているという事情。かたや、派遣のバイトや、家族・パートナーの協力・貢献でなんとか続けている状態の差は大きいでしょう。
今日は、それ以外の要素について考えてみます。
日本の芸能・パフォーマンスに能は大きな伝統を持っています。
「打ち合わせ」「申し合わせ」「檜舞台」「板に付く」「後見」「ノリがいい」「キリがいい」「あしらい」「囃す」など普段使っている言葉の由来は能です。能では、リハーサルはほとんどしません。上記「打ち合わせ」は、鼓をポンと打ったりして調子を見るだけ。全ての出演者は流派が違っても、全ての出演者のすること(舞・謡など)を記憶していて、本番の舞台でギリギリの駆け引きをしながら緊張感をもって勝負する。
また、本来「神」に捧げるものなので(神の座る席があったといいます)、終演後の拍手は無し。終わりの一打が決まるととても清々しいです。
演者・聴衆すべての気が集中した最高の終わり方が「目的」のような気さえします。もちろん良い終わり方ができるためには充実した中身が必要ですが、終わった後に残るもの、を大事にしたのかと想像します。終わった時に始まるもの。私たちがノイジーな音を出すのも、終わった後の沈黙を深くするためではないか。
一方、ヨーロッパでインプロをやっていると、「決まった!」と感じる終わり方をしても、ヒョロ〜とまた始めるヨーロッパ人がかなりの確率で居ます。
イギリスのAMMというインプロのグループは多少のメンバー変更はありましたが、優に50年続いています。ビートルズ結成前のレノンやマッカートニーが聴きに来ていたという長寿グループです。ブロンディさんにしてもHUBBUB,RHRRというインプロのレギュラーグループを長年継続しています。
気心の知れたメンバーと実験を繰り返す、会えている時には少しでも演奏していたい、自分の中から出てくるものを観てみたい・聴いてみたいということのようです。ずっと一緒にやっている仲間とでは、自分の持ちネタや人目を引く得意技を使うことは必要無い、というのも魅力なのでしょう。あくまでも「音」優先。飽くなき追求からは強靱な精神・表現が可能になります。
実際ヨーロッパで演奏していると、聴衆の有る無しにかかわらず、一緒に音を出そう!という機会がよくあります。なかなか会えないと午前中にスタジオを借りてとか、当たり前のようにあるのです。私がレ・クアン・ニンさんと初共演したのもそんな機会でした。あるフェスティバルで会って、お互い次の場所に移動する前でした。
本日も、そんな文化の違いを楽しむようにしたいものです。結局私は欲深いわけです。生き延びて、演奏できることだけでも天国と思っていたのにね〜。
19:00 – 21:00
3,000 円
アンスティチュ・フランセ東京 エスパス・イマージュ
〒 162-8415 新宿区市谷船河原町 15
プログラム:
第一部 : フレデリック・ブロンディと 中村としまる (no-input mixing board)デュエット。
第二部: フレデリック・ブロンディ、 齋藤徹(コントラバス・作曲)、 徳永将豪 (SAX)、高岡大祐 (チューバ), 山岸直人 (PERC)、 森重靖宗 (チェロ)
ミュージシャンとともに乾杯!(お客様お一人当たりシャンパン一杯無料)