リクシルギャラリーでのパフォーマンス
京橋リクシルギャラリーでの山上渡さんとのパフォーマンスでした。
翌日初日を迎える三人展(神馬啓佑+宮田彩加+山上渡、 清水敏男キューレーション)「クリエイションの未来展第九回 スピリチュアル・イマジネーション)のお祝いとしてリセプションを兼ねたお披露目。2016年9月8日(木)~ 11月22日(火)
■ 休館日水曜日■ 開館時間 10:00~18:00 http://www1.lixil.co.jp/gallery/contemporary/…/d_003577.html
山上 渡 (Wataru Yamakami)さんと初めて会ったのが、上智大学での教場でした。場違いな感じを持ちつつも私なりに精一杯講義をしていた時です。もう十年以上前でしょう。最前列に日頃見ない2人が懸命にノートを取って、さかんに大きくうなずいています。いわゆる「もぐり」で来ていました。(この講義はモグリの人が多いのが特徴でした。)
なにしろ私の音楽や芸術や人生に対する考えを経験に即して話し、1人でも2人でも学生を本気に刺激して欲しいというのが講義依頼の主旨でした。しかしこの大学には芸術系の学部学科は無く、外国語学部・文学部などの学生が対象。のれんに腕押しのような感じが否めませんでしたので、この2人は異物のように激しいコントラストを見せ、本来の学生が逆に疎外される勢いでした。
聞けば兄妹で妹さん Akiha Yamakami(現在ニューヨークで美術制作)が私の娘の親友(多摩美で小林裕児さんの学生ということが後に判明)、その兄が渡さんでした。世界を旅しながら美術制作をしているとのこと。
その後、渡さんは、岡本太郎賞や東京ミッドタウン賞などを受賞。故郷の長野で制作を続けています。
こう言うと順風満帆な新進気鋭の美術家のようですが、何の悩みも無くハツラツと前進している表現者など本来「ありえない」わけで、渡さんにしても「なにかを見てしまった」のですが、それが何なのかつかめず、自分の今の表現では実現できない気がして、遠い視線をあちこちに向けては試行錯誤しているわけです。(想像です)
現在の視線はアジアやアニミズム、スピリチュアルなものに向けられているようです。随分前から丁寧に今回の依頼があり、長野で2回、東京で1回内容についての話合いがありました。最近の美術(いつのころからか「アート」というようですね。)にはコンセプトが重要視されているようで、今回のテーマ「スピリチュアルイマジネーション」というのにもキュレーター清水さんの宣言のような文章がありました。美術館、企業系のギャラリーを動かすには文章は必須なことも理解しています。
私としては、ご本人がどういう状況であるかを知りたかったので何回か実際にお会いして話が聞けたことが貴重でした。本人がどういう状況で、私に何が求められているのか?それさえ分かっていれば良いのです。コンセプトをいくら文章で聞いても伝わるとは限りません。
儀礼や祭事も大事だけれど、日常的な所作、ルーティンの所作の中にこそ、スピリチュアルなものへの通路があるはずだ、さらに言えば、日常生活こそが儀礼であり祭事である、ということか、と私なりに理解しました。マレーシャーマン系の友人ザイ・クーニンにも同じものを感じています。そして渡さんとザイも旧知の仲とのこと。繋がるものは繋がるのです。ザイもよく野菜や食べ物をパフォーマンスに使いますが、渡さんもニンジンやバナナ、飲料水を用意しています。しかし、ニンジンのきざみはとても上手でしたね。
最近の私のブログもよく読んでくれていて「演奏が終わった時に、音楽が始まる」という言葉に惹かれたとおっしゃいます。なるほど、すこしずつ彼の言葉が解けてきて、やりたいことが、いろいろと見えてきます。
私の役割として、彼の行う日常的所作を時に増幅し、時に異化し、時に無視、時になぞらえる、そんなことだけを頭に置きました。(本番は忘れていますが・・・)
ということであとは実践だけ。十分に準備して本番でそれらすべて投げ出す。これですね。
この展示のための床も全て張り替えて純白にしてあり、演者も聴衆も土足厳禁。キュレーションの思いも伝わってきます。京橋のギャラリーで部屋に入るときに靴を脱ぐことは非日常であり日常であります。純白の空間はスピリチュアルな感覚とは好対照。渡さんの提案で最後の4分はすべての照明も落とし、最後の1分は音も無くす。何も無い空間を幻視。
そして、パフォーマンスはあっと言う間に終了しました。現代美術系の聴衆はとてもオープンに、好意的に受け取ってくれたようです。私のような演奏に、こういう聴衆がいるのだなと再認識。音楽ファンは自身の好きな領域に浸ってしまい保守化しがち。表現方法としての美術をとりまく状況は音楽より進んでいるのでしょう。
ここでも楽器に対して「あんなに叩いて大丈夫ですか?」と心配してくれる人が何人かいらっしゃいました。ハイ、大丈夫です。スティックで叩いているのは弦だけです。コントラバスの弦の張力は1トン!です。スティックの木の硬度とガット弦の硬度はしっかり確かめていますし、渡さんの用意していた木材と弦の硬度の違いもちゃっかり事前に調べています。ハイ。興に任せて「楽器など道具だ、壊れるなら壊れよ」と思いつきでやってしまうには経験を積み過ぎています。
何しろ、この楽器は私にしては「過ぎ物」で、なんとか私のキャリアを全うした後、最適の奏者に最高の状態で渡さねばなりませんから。
ミッションコンプリ。