30日のソウル公演に期待する理由を書かねばなりません。
韓国伝統音楽とは録音を始めて25年位の関係があります。8枚の韓国制作のCDがあります。最初のCD「神命」(ソウル音盤)は金石出・安淑善・李光寿さんというキラ星のごとき優れた演奏家とご一緒させていただきました。まだ日本語の歌が禁止されていた頃です。一説によると、このCDは戦後韓国のレコード製作で初めて日本人を使ったものかもしれないとのこと。また、巫楽・国楽・農楽の代表者が一同に会して演奏することは当時ほとんどあり得なかったと言います。(シャーマン・巫族が社会的差別を受けていたため)そんな中、変な日本人(私のこと)が居ると言うことで三者が共演できたということです。私の秘かな誇りです。このCDはかなり評判になりたくさん売れました。そのためソウル中央日報のホアンマットホールで大きなコンサートが行われ、その時は金石出・安淑善・李光寿・李太白・沢井一恵・板橋文夫・齋藤徹というさらに大きなメンバーでした。(とても良い映像も残っています)
私の企画ユーラシアン弦打エコーズ、ユーラシアンエコーズ第2章もその流れの中で行われました。第1回目のユーラシアン弦打エコーズで23年前に共演した許胤晶(コムンゴ)姜垠一(ヘーグム)元一(ピリ・打楽器)が21年後のユーラシアンエコーズ第2章で揃って来日・共演してくれました。
三者とも現代の韓国伝統音楽の押しも押されもしない代表格になっています。許胤晶さん(ホ・ユンジュン)とパク・チャンスさん(即興ピアノ)のデュオをたまたま聴くことがあり、どちらかというとヨーロッパなどで行われているインプロビゼーションに近いパク・チャンスさんに一歩も譲らずに堂々とコムンゴ(グランドピアノとの音量の差はとても大きい)で伝統の基づいた即興演奏をしていました。これには大変感動しました。姜垠一さんとは姜泰煥さんと一緒に来日していた時に共演もしました。脂ののった艶やかのヘーグムでした。
韓国では即興演奏が普通に行われていて、伝統音楽の中でも脈々と続いていると私は誤解していたようなのです。もちろん伝統音楽の中で即興演奏はありますがそれは日本の伝統音楽の中での即興と似た立場であり、普通に行われているものではなく、やはり、伝統と形式の重みに耐えながら少数の人達の自主的活動だったようなのです。
では、なぜ許胤晶・姜垠一・元一さんたちがごく自然にインプロビゼーションを行い、尊重しているか?それは、何よりも、姜泰煥・金大煥・金石出さんの直接の影響だったのです。その証拠に、今でも金大煥の命日には毎年この劇場で催しものが行われているそうです。
私にしてもこの三者からは大きな大きな影響を受けています。許胤晶・姜垠一・元一さん達の存在は実は例外的もっと言えば奇跡的なことだったのです。これを逃す訳にはいきません。ちょっと外から俯瞰出来る私の責任であり、義務であると思うに至りました。
一方日本では、喜多直毅さんがご自分のキャリアの中でインプロビゼーションを抜き差しならぬものとして捉え、かといって即興オタクには成らず、目を見張る長足の進歩を遂げています。
もう、これは「今」しかない四重奏なのです。
長く音楽活動をしていると、時をあやまって、待ちすぎたり、焦ったりして、せっかくの実りを失う失敗を何回も味わっています。苦い苦い。
この機会はもしかしたら千載一遇と言っても良いのかもしれません。
あまり期待しすぎて空回りしないよう要注意!だよ、平常心、テッチャン。