うたをさがしてトリオツアーレパートリーその1

永遠と1日002 霧の中の風景004 エレニの旅003

 

うたをさがしてトリオツアーレパートリー より

テオ・アンゲロプロス監督作品からの楽曲
脚本はテオ・アンゲロプロスとトニーノ・グエッラ
日本語訳は池澤夏樹さん。どうしても収まらないところは編集しました。

1.河の始まり :「エレニの旅」より。
夢の中で河の始まりを探しに行こうという若い二人と案内の老人。「手が葉に触れ、水滴がしたたった。地に降る涙のように。」歌と演奏が交互に演奏を繰り返し、河の始まりを知った喜びの円舞を踊ります。水・雨を多用するのがアンゲロプロス映画の特徴の一つです。「エレニの旅」では何年もかけてなんと一つの村を創り!人を住まわせ、そして、撮影最後では全体を浸水させたのです。浸水の最初は一粒の水滴。

2.クセニティス:「永遠と一日」より。
ギリシャ実在の詩人ディオニソス・ソロモスが母国に帰り革命賛歌を書こうとしましたが、「母の言葉が分からない」そこで歩き回り、聞いた言葉を書き留め、知らない言葉には金を払った。「詩人が言葉を買うぞ」という噂が広まる。クセニティスとは「何処にいてもよそ者」と言う意味。テオ・アンゲロプロスがしばしば扱うテーマです。リディアン旋法(ギリシャ旋法の一つ、いわゆる短調でも長調でもなく、基音から4度上の音が半音高い)のメロディのまにまに印象的な言葉が立ち現れるという方法をとりました。リディアン旋法は私がずっとずっと囚われているスケールです。生と死を表す時にはどうしても使ってしまいます。母語・母国語・日本語、いろいろ考えさせられます。

3.今日は私の日:「永遠と一日」より。
主人公アレクサンドレの妻アンナが一途に愛を求めますが、どうしても届きません。切ない気持ちを歌い,踊ります。「私はただの恋する女、踊りましょう、踊るのが嫌いでも、だって今日は私の日。」5拍子のアルゼンチンサンバから草原のミロンガで踊ります。5拍子のアルゼンチンサンバなどあるのかどうか知りませんが、私の中では確実に存在するリズムです。草原のミロンガ部分はなんとなく昭和歌謡に通じるものができました。

4.コルフーラ・私の花:「永遠と一日」より。
アルバニアから越境してきたストリートチルドレンとアレクサンドレのロードムービーのように話は進みます。その中で口をきかなかった少年が時々口ずさむ歌がありました。「国を追われた私の小鳥は 見知らぬ土地で哀しかろう」「林檎を送ったら腐った、マルメロを送ったらしなびた。・・・ぼくの涙を送ったら・・・・」と印象的な言葉が続きます。コルフーラ・私の花、という言葉も上記「クセニティス」でも登場し円環します。

5.ああセリム:「永遠と一日」より。
アルバニアからのストリートチルドレン仲間セリムの溺死体が発見されます。仲間が廃屋に集まりセリムの服に火をつけ追悼するときの言葉です。「ああセリム、今夜君がいないのが辛い・・・海はとても広い、そこはどんなところ?僕たちはどこへ行く?目の前は海、限りない海だ・・これから行く港のことを君から聞きたかった。マルセイユやナポリのこと、広い世界のこと・・・・」こんな詩を子供に語らせている脚本の見事さ!この旋律のインスピレーションはダライ・ラマの説教だったりします。

6.目を閉じて:「永遠と一日」より。
アンナがアレクサンドレに問いかける。「嘘をついたあなたは部屋の影に隠れ夜の声に略奪される。私は目を閉じてああなたを見る、耳を閉じてあなたを聞き、口を閉じて訴える。」永遠に続くワルツです。

7.看守さん:「エレニの旅」より。
反逆者を匿った罪で監獄を転々を移されるエレニ。アコーディオン奏者の夫は、夢を求めアメリカに渡ってしまい、アメリカ国籍を得て従軍し沖縄で戦死する。二人を結ぶ赤い糸がそのまま船出に使われていました。二人の双子の息子は敵対する軍の兵士となってしまう。「看守さん 水がありません 石鹸がありません 子どもに手紙を書く紙がありません。また違う制服ですね 灰色の制服 黒い制服 名前はエレニです 反逆者を匿った罪です 今度は何処の牢獄です?」と夢にうなされるように繰り返すシーンの台詞です。

8.霧の中の風景:「霧の中の風景」より。
二人の姉弟が、ドイツにいるというまだ見ぬ父親に会いに汽車に乗る。「時間を忘れながら、しかも急いでいる。」「到着する当てのない旅はとてもむなしい。」子供が大人になる過程で失われてしまう大切なものを思い起こさせるロードムービー。最後には国境を越えたのか?幻視なのか・・・・。ドイツは労働力としてギリシャ・トルコから多くの人を受け入れました。現在シリアからの難民受け入れは大きな社会問題になりつつあります。

9:春は約束を守らない:「永遠と一日」より。
ポーランドの詩人シンボルスカの「終わりと始まり」(未知谷)と呼応する池澤夏樹の「春を恨んだりはしない – 震災をめぐって考えたこと 」(中央公論)とさらに呼応するものとしてアンゲロプロス由来の曲の中に「春は約束を守らない」を入れました。日本語字幕を担当した池澤さんとアンゲロプロスは固く繋がっています。お二人の対談DVDもありますね。冬に北の土地を旅していると、どれだけ春を待ち望んでいるかを感じ、そしてまた冬は来るわけです。

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