東日本大震災の避難所(妊婦と新生児が集まっていました)で演奏した時に「ここで必要なのはうたとおどり」と痛感して、長年の懸案だった歌作りを始めるのは「今」と思い取りかかりました。
さてさて、自分で歌詞を作ることが出来そうに無いことが分かり(中学校の国語の時間以来、詩作などしたことがありませんでした。)
「さて、私にとって詩を感じる言葉は何?」と思ったときに真っ先に浮かんだのがテオ・アンゲロプロス監督の映画でした。
よく調べてみると、トニーノ・グエッラさんという詩人・脚本家が鍵かもしれないと推察しました。アンゲロプロス作品では「シテール島への船出」「蜂の旅人」「霧の中の風景」「こうのとり、たちずさんで」「ユリシーズの瞳」「永遠と1日」「エレニの旅」「エレニの帰郷」と参加しています。好きなものばかり。
(イタリア人同士としてマストロヤンニさんの出演した二作が入っていますね。マストロヤンニさんも「蜂の旅人」では吹き替えだったのですが、「こうのとり、たちずさんで」ではギリシャ語という熱心さでした。)
その上、タルコフスキー「ノスタルジア」フェリーニ「アマルコルド」「ジンジャーとフレッド」「そして舟は行く」(ピナ・バウシュ出演)、ミケランジェロ・アントニオーニ、ヴィットリオ・デ・シーカ、の諸作にも脚本として参加しているのですから、私のツボはこの人に違いないと推論したわけです。
そしてあろうことか、アンゲロプロスさん事故死の直後にトニーノさんもお亡くなりになっています。
アンゲロプロスさんの映画に音をつけたいという野望も潰えました。それは、ピアソラのグループへ入ろうとCDを作り高場将美さんに託した時、アストルさんはヨーロッパで倒れて危篤だったというのを思い出しました。
無謀な夢物語に見えますが、私は結構本気でした。お笑いください。
是非、アンゲロプロスさんの映画を観てください。
テオ・アンゲロプロス監督作品
「永遠と1日」「エレニの旅」「霧の中の風景」の台詞より作曲しました。
こんな台詞です。
うたをさがしてトリオツアーで演奏します。
CD「うたをさがしてLIVE@ポレポレ坐」収録。
「河の始まり」エレニの旅より
昨夜 夢で 君と二人で 河の始まりを探した 老人が案内してくれた
のぼるにつれて 河は 細い流れに分かれた 雪をいただく 山頂のあたりで 老人が 青々とした ひそやかな
草原をさし示した 茂る草の葉から 水がしたたって 柔らかな地に注いでいて ここが 河の始まりと 老人が言った
君が手を伸ばして 葉に触れ 水滴がしたたった 地に降る涙のように
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「クセニティス」永遠と一日より
ここが我が家 だが言葉を知らない 革命賛歌を書こうにも 母の言葉がしゃべれない そこで、彼は近所を歩き回り 畑や漁村で、聞いた言葉を書き留めて 知らない言葉には、金を払った 噂が広まった。”詩人が言葉を買うぞ” その日から、行く先々で,彼の周囲には 貧しい老若男女が集まり彼に言葉を売ろうとした
深淵 かぐわしい 朝露 始源 夜鳴き鶯 天空 波濤 湖 未知なる 馥郁たる 夢見心地の人よ、今宵は何を見た? 驚異に満ちた今宵・・・魔法を育てる今宵・・夢見心地の人よ
クセニティス 何処にいても、よそ者 アルガディニ とても遅く・・・夜、とても遅く
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「今日は私の日」「目を閉じて」永遠と一日より
あなたはまだ眠っていた 夢を見ていたの?アレクサンドレ
あなたの手が、私を探すように動き、瞼が震え、あなたはまた眠りに落ちた。
あなたの目から、涙のような汗が一滴、転がり落ちていった。
蕎麦で、赤ちゃんが、むずがった。ドアがきしんだ。私はベランダに出てそっと泣いた。
夜、あなたを見ていた。寝てるの、黙っているの? 考えているあなたが恐い。
沈黙に割り込むのが恐い。だから、私は、身体で、私は傷つきやすいと伝えた。
それが私の唯一の方法だった。私はただの恋する女よ、アレクサンドレ
私は裸で砂浜を歩いた。風が吹いて、沖を船が通った。まだ寝ているあなたの、温かみに包まれて、でも、あなたは、私の夢を見ていない。ああ、アレクサンドレ、私を夢見ていると一瞬でも思えたら、嬉しくて泣き出すわ。
遠く遠く広い海を あなたの島が進む バルコニーの風に,干し忘れのあなたのシャツ
嘘をついたあなたは、部屋の影に隠れ、夜の声に略奪される
私は、目を閉じてあなたを見る 耳を閉じて,あなたを聞き、 口を閉じて、訴える。
海辺から、あなたに、何度も、何度も、手紙で、話しかける
いつか、この日のことを、思い出すときがあったら、覚えていてね。
夢中になって、あなたを見ていた目・・・・ 夢中であなたに触れた指・・・震える想い出、私は待っている・・・
なぜって、今日は私の日。 踊りましょう、踊るのが嫌いでも,今日は私の日
明日・・・明日って何だ? いつか君に聞いた、”明日の時の長さは?” ”永遠と1日”
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「コルフーラ 私の花」永遠と一日より
国を追われた私の小鳥は 見知らぬ土地で悲しかろう おまえを迎えた土地は喜んでも
私とおまえは離ればなれ・・・・ 誰にわたしのコルフーラを・・・・・
リンゴを送ったら、腐った マルメロを送ったら、しなびた 白いブドウを送ったら 途中で傷んだ 僕の涙を送ったら・・・・
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「ああセリム」永遠と一日より
ああ、セリム、今夜、君がいないのが辛い ああ、セリム、恐いよ、 ああ、セリム、海はとても広い そこはどんなところだ? 僕たちはどこへ行く? 行く手が,山でも谷でも、警官や兵隊がいても、僕らは前に進んだ 今、目の前は海、限りない海だ・・・ 夜、お母さんが悲しい顔で、戸口で立っていた クリスマスだった。 山の頂は雪で白く、鐘の音が響いていた これから行く港のことを、君から聞きたかった。 マルセイユや、ナポリのこと、広い世界のことを。 セリム,話してくれ 広い世界のことを。 ああ、セリム、話して、話してくれ、セ
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「看守さん」エレニの旅より
看守さん 水がありません 石鹸がありません 子どもに手紙を書く紙がありません。
また違う制服ですね 灰色の制服 黒い制服
名前はエレニです 反逆者を匿った罪です 今度は何処の牢獄です?
看守さん 水がありません 石鹸がありません 子どもに手紙を書く紙がありません。
また違う制服ですね ドイツは緑 あなたはドイツ人ですか_
名前はエレニです 反逆者を匿った罪です 今度は何処の牢獄です?
44年12月は 私も皆と 広場で解放を祝いました
今度は何処の牢獄ですか? また違う制服ですね あなたはイギリス人ですか?
銃弾1発はいくらです? 命一つはいくらです? 制服はどれも同じに見えます
看守さん 水がありません 石鹸がありません 子どもに手紙を書く紙がありません。
今度は何処の牢獄です? 名前はエレニです 反逆者を匿った罪です
看守さん 私は難民です いつ どこへ行っても 難民です
三歳の時 河辺で泣いていました
水がありません 石鹸がありません 子どもに手紙を書く紙がありません。
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「霧の中の風景」霧の中の風景より
探しに行くと決めたので,手紙を書きます。
お父さんに一度は会いたいといつも二人で言っていました。
ママは心配するでしょう。本当はママのことも好きですが、ママは私たちのことを分かってくれないのです。私たちはお父さんの顔を知りません。アレクサンドロスは夢で、お父さんを見たといいます。とても会いたいです。 時々、学校からの帰り道で、後ろから、お父さんの足音がついてきます。でも、ふりむくと,誰もいない。そんな時は淋しいです。ご迷惑にならないように、お顔を見たら、すぐに帰ります。答えてくださるなら、汽車の音に託してください。タタン・・・タタン・・・タタン・・・タタン・・・”私だよ、お前達を待っているよ”
お父さん、もっと早く発てば良かった。木の葉のように、旅をしています。世界は不思議です。鞄や、凍てついた駅や、わからない言葉と身振り。恐ろしい夜。でも、楽しい旅です。まだまだ続きます。
きみら、変わった子だよ、時間を忘れながら、しかも急いでいる。どこにもいかないのか、行ってしまうのか・・・行く先は知っているの?あんたも変わっているぼくかい?ぼくはカタツムリ。這っているだけ。行く先を知らない。前は分かっている・・と思っていたけど。もうすぐ徴兵だお。それだけは確かだ。お父さん、遠い旅路です。夢の中では近いのに、と弟は言います。手を伸ばせば届くくらいだと。
旅を続けます。飛び去ってゆくーーー町も、人も・・・
すごく疲れたときには、西も東もわからなくなって、お父さんのことさえ忘れそう。そうしたら終わりです。弟は大きくなりました。真面目で、服も一人で着ます。大人みたいなことを言います。私はずっと病気でした。すごい熱でした。だんだん良くなっています。でもドイツはすごく遠い・・・・
ゆうべ、旅を中断しようかと考えました。到着する先のない旅は、とてもむなしい。弟は大人みたいに怒りました。裏切るの、と言われて、恥ずかしかった。