フライヤの文章です。
ザビエ・シャルル→タツヤ・ナカタニ→ロジャー・ターナー→今井和雄→ウテフェルカー、ヴォルフガングズーフナー、ジャンサスポータスと続けてきた「挟み撃ち!」シリーズ、今回は、久田舜一郎(小鼓・声)さんです。
ヨーロッパのインプロバイザーとの共演ならば共有情報・感覚があるので、思う存分「インプロ」できます。一方、日本の伝統に対してはそうは行かないでしょう。自らの立ち位置を根こそぎ吹き飛ばされる怖れもあります。「何をやっておるのだ、チョコチョコうるさいなぁ。天井裏をねずみが駆けだしているようだ。第一、楽器を普通に弾かないのか?」などと笑われているようにも感じます。
日本・アジアにもインプロの素晴らしい伝統があります。しかし、自らの身体や精神の中にそれが根付いているのか、そもそも、存在しているのかが試されるのです。
久田舜一郎さんと出会いは阪神淡路大震災のチャリティーコンサートでした。フロントに能管と小鼓、バックに4~5人のベーシスト(バール・フィリップス、吉沢元治、私、もう一人二人の日本人以外のベーシスト)でした。能管と鼓と掛け声に対して、居並ぶベーシストが会話のように音で答えていました。その反応は「違うよ!」と私は直感しました。「ここは会話では無く、待つところ」と思ったのです。結局私は最後までほとんど音を出すことが出来ずに終わりました。
人生で何回かしかありませんが、その時、何か大事なことが起こっていると感じました。矢も盾もたまらず、翌日倒壊しているビルの中でソロがあることを聞きだしました。デュオをやらせてもらいました。生まれて初めてでかつ懐かしい「もの狂い」の世界を体験、私の爪は割れ、血が飛び散りました。
こうなったら、彼を、あるいは彼を成り立たせているものを、私の師匠とするしか有りません。能にほとんど無知な私は「能は、哲学や美意識が深いものがあるのでしょう?」と聞くと「いやいや、私は単に『型』をやっているだけです」というなんともスゴイ答え。
まず、私が関わっていた演劇にお招きしたら、百戦錬磨のはずの役者たちを一瞬で吹き飛ばし、ヨーロッパツアーのときは、各地で大絶賛。特にナンシーでのフェスティバルでは、パリのイルカム(ピエール・ブーレーズ主宰の現代音楽集団)からのプレイヤー、ブルキナファソの自分の部落から一歩も出たことの無かった人達、さまざまなインプロバイザーとのセッションで久田氏の月に向かって吠えた一声でその場のすべての集中と尊敬を勝ち得、フェスのピークを作りました。
また、彼の本業での、「道成寺」のシテ方との「乱調子」のインプロの凄まじいこと!シテ方から一瞬たりとも集中をそらせたくないためでしょう、二人の助手をつけて(一人は小鼓の皮を息で湿らす係、一人は椅子を押さえ久田氏が転けないようにする係)壮絶なインプロをしていました。
能の修行は厳しく、子供の頃から毎日殴られるように何年も修行を重ねるそうです。そして、修行が終わった暁には、何処の舞台に出ても大丈夫。
日本にはそんな伝統があるのです。私も直毅さんにしても、「外来文化」としてインプロビゼーションから始まりました。そんな2人が久田舜一郎さんを「挟み撃つ」ことなど出来ようがありません。歓んで玉砕します。しかし、ただでは死にませぬ。繋がるべき芽を見極めることだけはなんとしてもやるつもりです。
6月30日(火)
19:30開場 20:00開演
出演:齋藤徹(コントラバス)喜多直毅(ヴァイオリン)
久田舜一郎(小鼓・声)
会場:KID AILACK ART HALL(明大前)
〒156-0043 東京都世田谷区松原2丁目43-11
03-3322-5564
料金:予約¥3,000 当日¥3,500
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