欧羅巴に範を求めずとも(続)

Watazumi_Doso_Roshi

 

欧羅巴に範を求めずとも(2) 海童道宗祖その1

 

アジテーションのような文章(LPのライナーに載っていました)を分割して載せます。

 

音盲は感盲(その1)

 

 音楽の吹奏で、奏者自身もその聴衆も一向に気付かないで、大変な音の誤りをおかしている音盲を示す現象に、いつも必ずきまってぶつかる。そのたびに、こちらは気持ちが悪くなる。

 音痴は、音の味わいが雑然となってわからない状態をさす。仲にはどんな響きにも無関心で情感が湧かない人もいる。虫でもミミズ類は、その鼻先きで響きを叩きつけても反応せず音痴である。

 音盲は音痴ではない。世に下手の横好きというが、これは音盲の類である。音盲は音が上下し高低を辿る際の微妙と、音質の剛柔による変化が、どうしてもわからなくて行えない点から起る。

 音の一つ一つには微妙と変化があり、これが音楽の構成を現わす基本であるも、少し楽器に達者になると、この大切な基本は簡単であるとしておろそかに考え、これを見逃すのが常である。

 この甘さが後にこたえてくるのであり、基本が出来ない以上は、悉く音楽の根本が崩れて了う。

 

 

 音盲の状態にある人は随分と多い。それも音楽を専らにしている人ほどに音盲もひどくなる。

 それに、音盲による人の音楽を称讃する批評家や受賞者側は、もっと深い音盲でしかない。これも自身が音楽を練ってきた訳でもないので、実際の体験が少なく、誤りも分かる筈はない。

 音楽家も自身が音盲であると気付けば、恥じ入って再度練習か音楽中止に至るであろうが、全然そうではなく従来通りである。なによりも音盲の音楽で気持ちが悪くならないのが不思議である。

 そこで自身が音盲であるとも知らずに、音楽を公演して得意となり、批評もこれをほめて拍手を送り、世上を惑わす。甚だ恐ろしい有様である。

 

 ここでは吹奏の音楽を主として説くが、音盲に至る要因は、一には音楽家が楽器にとりついているせいによる。音楽家が楽器を愛用するのは当然ながら、それでいて音の基本を究る努力をしない。

 その努力は初歩であり、もはや無駄であるとし、そんな無駄を積んでも世上は認めてくれないときめ、新機軸の音楽案出に浮身をやつす。

 そうした建前の音楽家達から楽器を取り上げて見ると、無論、音楽家達は忽ちお手上げとなる。

 だがお手上げになった処が、人間を鍛えていく場である。この立場からして音を究める。そうなると一個二個の楽器の音に執着しているのではなくて広く音の世界を体験する。この体験の境地がないと、音の本質と、微妙も変化も知り得ない。

 このことを逆に示すと、殆ど音楽家は楽器にとりついたきりで離れ得ない。総ては楽器のおかげで名を売るという楽器の奴隷であり、音に接し乍ら、音とは何ぞやとする音哲を究めていない。(つづく)

 

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1911年~1992年。元普家宗管長。戦争中は軍隊を武道で鍛え(合気道の植芝盛平さんを思い起こしますね)、禅宗の管長になりながら、禅の呼吸に疑問を感じ、もっと自由になりたいと辞め、その後、海童道を始め、朝暗い内から丈を振り回しながら毎日6時間の修行を欠かさなかったそうです。

 

多くの伝説があります。国立劇場での演奏の時に、他の出演者が練習ばかりしているのに腹を立て舞台で寝たとか、毎朝の丈の鍛錬で何回も職務質問を受けたとか、タルコフスキーが映画「サクリファイス」に彼の音をつかっていますが、それはどこから渡ったかとか、「ひとつの音に世界を聴くー武満徹対談集」(晶文社)でのジョン・ケージ、武満徹、海童道の対談の様子とか・・・・

 

堺の高僧のおかげで私は多くの録音を聴いています。ネットで情報が溢れる時代になってもなかなか彼のことは出てきません。アメリカの尺八サイトが詳しかったりしました。映像としては「SUKIYAKI&CHIPS」というとぼけたタイトルのDVDがアメリカででています。最後の7分間だけですが、その7分だけでも大変貴重です。(日本の音を特集したこのDVDにはタケノコ族からストリップ、アイドルスター、吉原すみれソロから、右脳・左脳研究の角田忠信さんまで出演しています。)土方巽さんの「恐怖怪奇人間」DVDもアメリカから取り寄せるしかないのと似ている?間章さんの「自由空間」にもほんの少し出演していて全世界を相対化してしまうような存在を示しています。

 

わが共演者ミッシェル・ドネダ(サックス)はだんだんと息音を強調する演奏になってきていますが、まさに彼の目指すところを海童道さんは実践しているので、ドネダは一聴、驚愕し尊敬しました。小泉文夫さんは世界の3人の音楽家として、ジョン・ケージ、ピート・シーガー、海童道を挙げています。

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