神命から 沢井一恵さん

SAWAI KAZUE

 

「日韓は隣同士と言ったって、玄界灘はとてつもなく深いのよ」と沢井一恵さんが答えていました。21年前のユーラシアン弦打エコーズ初日神田パンセホールでの舞台転換の時のインタビューです。同種の楽器があることからインタビュアーは「近い」という印象の言葉を引き出そうとしていたようでしたが、逆の言葉でした。気軽に言わないでよ、という気持ちも含んでいるようだったのでよく覚えています。

 

かつて中国にあった箏が25弦で、それが日本の13弦、韓国(カヤグム)の12弦に分かれたという伝説があるそうですが、音楽の特徴は本当に違います。しかし、一恵さんは何か強烈なものを感じたことは確かです。その後何回も一緒に韓国に行き、演奏・録音を繰り返し、「クッ」という地方のお祭りにも泊まりがけで参加、アジェンを購入(神奈川フィルハーモニー管弦楽団とのストーン・アウトではその楽器を演奏しました。)、そして最近は西村朗作曲の「かむなぎ」(韓国のリズムを使った17絃と打楽器の曲)を盛んに演奏しています。

 

CD「神命」が韓国で大変評判(売れた)そうで、中央日報社のホールで大きなコンサートもしました。それが ”「ユーラシアンエコーズ」国楽・ジャズコンサート”でした。国楽・ジャズという言葉が入っていますね。この時は日本からも他のミュージシャンを連れて来て欲しいというので、当時よく演奏していた沢井一恵さん・板橋文夫さんの2人に来てもらいました。演劇公演「白鬚のリア」第3部で連日ライブで共演したり、韓国・タイ・ラオスへの国際交流基金ツアーにも同行してもらいました。韓国側は金石出・安淑善・李光寿さんに李太白という珍島出身のアジェンの名手も加わりました。

 

一恵さんが「六段」を披露したこともありました。「伝統」ということを身をもって試したかったのでしょう。金石出さんが沢井さんの演奏に感激していたのを思い出します。「一恵さんは名人、徹さんは大学院」というなんともよくわかるようなわからないようなコメントをいただきました。

 

沢井さん板橋さんとも感じるところが多かったようで、日本でも「月の壺」トリオということでCDも出しています。その時は李太白さんのアジェンとキムソナさんのヘグムも入り湯河原空中散歩館でのライブでした。キムソナさんの歌と徹・一恵・文夫の韓国録音「空の道」(CD「無翼鳥」に収録)は何ともチャーミングで韓国音楽苦手の人にも評判です。

 

日本文化はすべて韓国からの真似という人もいますが、当事者は謙虚に音楽に向かっています。諸説に関わっている余裕はありません。私達は「現場から」、そして「自分の(知らない)記憶から」、そして「仕事を通して」考えたいものです。音楽はそのための大変優れたツールです。

 

 

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見出しの写真は釜山近郊の小さな漁村での金石出・沢井一恵・齋藤徹

下の写真はクッでの様子。(金石出一族が仕切っていました。)

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