2月22日(金)ジャン・サスポータス(dance) with ベースアンサンブル“弦311″
齋藤徹・田嶋真佐雄・瀬尾高志(contrabass)・田辺和弘・パール・アレキサンダー
『Barre Phillips/Bass Ensemble Gen311 live at Space Who』CD発売記念ライブ』
場所:いずるば(東京都大田区田園調布本町38-8)
http://www.izuruba.jp/
開場19:00 開演19:30
料金:予約3,000円 / 当日3,500円
予約先:TEL:080-3584-3315 Mail:izuru38yry@softbank.ne.jp
*「さくら坂」信号を左折、2軒めのグレーの建物1階 東急多摩川線「沼部駅」より徒歩5分
*ジャンさんとの出会いは、東日本大震災後すぐの4月でした。福島原発の事故の影響でドイツから来ることが出来なかったジャンさんと、ネット回線(skype)を使って東中野ポレポレ坐とブッパタルとの中継ライブを行いました。その後来日が叶い3度の弦311での共演。どれもが心と身体の奥に残っている体験でした。再びみんなで音を出せる喜びを噛み締めたいと思います。
この日は、昨年10月27日に行われた深谷Space Whoでのバール・フィリップスさんと弦311の歴史的共演を録音したCD「ライブ・アット・スペースフー バール・フィリップス+ベースアンサンブル弦311」の発売記念ライブでもあります。このアルバムの売り上げは今年6月にNYロチェスターで行われるISB(国際ベース協会)コンベンションに参加するための資金に使わせて頂いています。
是非ともこの記念すべきライブにお越しください。
ALL ABOUT JAZZというところにベースアンサンブル弦311のDVD評がでましたので、訳します。
これだけ詳細な評がでたのは初めてです。
(初めに私の紹介があります。ここでは略します)
齋藤の音楽やベースに対するアプローチは他のフリーインプロバイザーとは違っています。ほかの現代活躍しているフリーインプロバイザーのようなイディオムに囚われないインプロビゼーションに縛られていません。彼の音楽言語はアルゼンチンのヌエボタンゴから日本や韓国の伝統音楽、東アジアのシャーマン音楽、ジャズ、現代音楽まで拡がっています。そして日本の伝統演劇や現代演劇、ダンス、美術まで精通しています。このカディマコレクティブのトリプティックシリーズの一巻は齋藤の仕事に捧げられています。このシリーズではかつて、もう一人の革新的ベースプレーヤー、マーク・ドレッサーに捧げられています。
この一巻には、CDとDVDそして76ページのアートブックがあり、齋藤の作曲、小林裕児のドローイング、乾千恵の書、ボーカリストのローレン・ニュートンの絵が含まれています。また、参加ミュージシャンや楽器についての詳細な情報も載っています。たとえば齋藤の1877年製の使用楽器は、彼の師匠であるバール・フィリップスの名前から「バール」と名づけられたこと、さらには松脂のメーカーまでが書かれています。
(ここで、沢井一恵とローレンニュートンとのトリオCDのことが書かれていますのでここでは略します。)
ほとんど2時間におよぶベースアンサンブル弦311のDVDはみものです。このベースクインテットは齋藤の弟子や近い知り合いで構成されています。このアンサンブルは2011年4月・5月にダンサーを含めて短いツアーをする予定でしたが3月11日東日本大震災が起こり、津波や福島原子力発電所事故が続きました。齋藤は企画を続けるけっしんをしました。そしてこの至近な悲劇は演奏家や演奏自体に深い洞察を与えました。「この先、何が起こるかわからないのだから、私達はその日その日を後悔無く精一杯生きる必要を本当に感じはじめた」と彼は書いています。
齋藤のこのアンサンブル用の六曲の作品は彼の今までの多くの影響を拡大させ、彼の30年におよぶ演奏生活の中で培った技法を駆使しています。最初の曲「ストーンアウト」はもともと箏アンサンブルヴォルテックスの委嘱で2005年に初演されました。この曲は韓国シャーマン音楽の要素を使っています。津波や地震の犠牲者への鎮魂の祈りが初めに演奏されます。韓国の12拍子が四季のサイクルをなぞり、その儀式的なスピリッツや箏に似た韓国の伝統楽器の奏法の引用、弦を擦り、なでて音を出し弓やスティックを打楽器的に使用しています。それはこのアンサンブル自体、聴衆、そして演奏場所を理想的な環境に調律するように作用しています。アンサンブルは曲全体を通してリズムのエッセンスをキープし、個人的な表現を否定し、全体で一つになることを目指しています。
2番目の曲は演劇的な「かひやぐら」で、日本の詩人・吉田一穂の使った蜃気楼にインスパイヤーされています。ピナ・バウシュカンパニーのジャン・ローレン・サスポータスのダンスと映像がドイツ・ブッパタールからのSkypeで送られ、それと共にこの初演が行われました。真っ青な空と白い雲の楽天的なヴィジョンが齋藤を捉えました。5人のミュージシャンがそれぞれの楽器の横に横たわる所から始まります。次第に楽器に手が触れ、1本の弓そして2本の弓を使い、弦以外の楽器のあらゆる場所が使われます。「音楽は技巧的で無くなれば無くなるほど、豊かになる」という齋藤の考え方に促されて全員が新たな方法でいろいろな実験をします。この曲は、5台のコントラバスがひとかたまりになったところで終わり、5人の演奏家がゆっくりとそのかたまりの回りを歩き、弓でふれたりしながら去って行きます。最後にパール・アレキサンダーがコントラバスの横に横たわります。
タンゴエクリプスはアルゼンチンのヌエボタンゴの影響があります。齋藤の初録音からタンゴの要素がありました。後に彼は2枚のアルバムをアストル・ピアソラの音楽だけで作りました。この曲は神奈川フィルハーモニー管弦楽団の委嘱でバンドネオンとコントラバスの2重協奏曲として作曲されました。アンサンブルは弦楽オーケストラの音、情熱的でエモーショナルな演奏をし、第1楽章、第2楽章とゆっくりとしたところからメランコリックな表現をします。そして第3楽章で火の出るような5拍子の急速なタンゴで最高潮に達します。
次の「糸〜西覚寺〜トルコ行進曲〜インヴィテーション」では古代のリディアン旋法が使われます。齋藤によると「生と死」を表すのに適しているということです。このスケールの和声がコントラバスにより豊かで驚くべき音響を作り出していて昔の記憶を思い起こさせます。控えめなオーケストラ的な奏法がこの旋法の可能性を引き出しています。
「浸水の森 テーマ〜夜」は小林裕児の2010年の絵画作品(どこかあの地震と津波を予言していたのでは無いかとさえ思われます)にインスパイヤーされています。齋藤はヴァイオリンとアコーディオンとコントラバスのために、不安な時勢を反映し、コンパクトなテーマを使った9曲を作曲しました。その中の曲がこのアンサンブルによって情熱を込めて演奏されています。
最後の曲「オンバクヒタム 桜台」マレーを通る黒潮の名前です。インドネシアやマレーの音楽から派生したペンタトニックスケールをさまざまな打楽器的なアイディアを探求しています。全体の大枠を決めているやり方なのでアンサンブルメンバーはコントラバスの様々な独創的なアイディアを使って探求しインプロバイズしています。たとえば、スティックで弓弾きしたり、2本の弓で演奏したり、ウインドベルを楽器のヘッドに付けたりして、コントラバスの注目すべき方法を示しています。この曲はそれぞれのメンバーが、短くちょっと恥ずかしそうに声を出して、彼らの音楽に対する気持ちを歌うところで終わっています。最後に歌う齋藤は「仲間の声が重なってひとつの歌になるように」と歌っています。
齋藤は、限界や領域の無いことを知る真に革新的なアーティストの一人です。このトリプティックは彼の集大成になるかも知れません。
EYAL HAREUVENI
(和訳・齋藤徹)