バールさんという現象

他にもベースマッセの写真が続続と届いています。この写真はリハあるいは録音中のものです。(ライブはみんな真っ黒の服でした。)ライブでバールさんを象徴するような面白いことがありました。

 

ある場面で5人のソリストの合奏になります。そのなかからバールさんがグリッサンドで抜け出して、私が従い、ロバートが従いというようにだんだんにバールさんグリッサンドに従うというパートがありました。録音セッションでは合奏後何の問題も無くグリッサンドに移行していきましたが、ライブではバールさんがなかなかグリッサンドに移行しません。

 

長い合奏が続く中、「バールさんはきっと手順を忘れてしまったにちがいない。お歳だし・・・」という空気が回りを覆い始めます。世話役でもあったアーヒムは気が気でない様子。指揮のセバスチャンも少し迷っている様子。私はこういう瞬間こそチャンスだぜ、と思って楽しく演奏を続けていました。セバスチャンとアーヒムの目が合ったのをアーヒムは、キューだと思って自らグリッサンドに移行しました。

 

そうしたらバールがアーヒムに「Not Now!!今じゃ無いぜ!」と言って、周囲の緊張を解きました。バールがグリスの瞬間を探していたのか、実は、本当に忘れてしまっていて、アーヒムのグリスによって気がつき、即座に対応したのか、定かではありませんが、ともかくこれがバールです。

 

ピンチや間違いは、チャンスになります。ヴィクトリアヴィルフェスティバルでのペーター・コヴァルトの追悼のコントラバスカルテット(バール、ジョエル・レアンドル、ウイリアム・パーカー、私)の時は、ある曲の途中でバールの咳が止まらなくなりました。困ったな、という空気が回りを覆い始めた時に私がわざと咳をしました。それを合図にみんなが咳をしだして雰囲気が急転したこともありましたね。

 

決めごとが多い場合や、周囲を十分気にしなければならないとき、リハが少なく気心が知れてない場合は、なかなか冒険をできる状態ではありません。しかしそういうときこそ、突発事故や間違いが有効に使えるわけです。「よい」「正しい」即興をしなければ、ということが足かせになり、即興からドンドンはなれていくのです。「よい」「正しい」というのが罠なのです。合奏の際は、規則を守るということは最低限守るべきものですが、その呪縛から開放されることもたいへん必要・大事です。そのあたりが年長者の仕事なのかもしれません。

3 Comments

  1. ははは、バールさんの「咳騒動」はイイね。
    これは、
    昔イタリアだかの王様がハゲ隠しに”ヘンなカツラ”を被ったので、
    側近達も大様と似たようなカツラで”場を取り繕った”
    って話しと似ててたのしい。

    その盛装(!?)のカツラが、あのバッハやモーツァルトの肖像画だ。
    ベートーベンはつけてないね。ハゲの貴族が減った時代だったのかもね。

  2. 初コメント感謝!

    現在はまたG・Hが全盛ですね。
    一説によると、ペストに対する優勢な遺伝子とGHが関係あるそうです。
    横だけ残って上が無くなる(でん助スタイル)のは男性ホルモン優勢とか。

    ジャンもバーコードヘアーを切ってしまおうかと悩んでいました。
    私の場合、白く・細くなったとは言え髪が多すぎてメンドーです。

    みんなが別々なのがいいですよね。

  3. 私は皮膚科医なのでつい。毛髪専門の本で読んだのですが、16-17世紀ころからヨーロッパの王侯貴族や作曲家、裁判官がカツラをしていますが、古代ローマでもシーザーは抜け毛で悩んで月桂冠を被った(らしい)、旧約聖書にでてくるサムソンは髪を失うことを弱点とし、力を失った(カラバッジョが絵にしているようです)、ヒポクラテスは鳩の糞で治療した(らしい)、アリストテレスは抜け毛の対処にヤギの尿を塗った(らしい)、古代オリエント人やエジプト人もカツラをつけたミイラが多数発掘されているそうです。髪は古今東西ファッションと密接ですし、抜け毛やカツラの文化史は研究書があるのでしょうが、おもしろそうですね。

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