魅惑のブラジル音楽 終了

期末試験前の中高生時代と同じ。明日9時に引っ越し業者が来るし、今日は鍵屋・ガス屋・古本屋が来るし、夕方からライブだし。やることが決まっていて、やらなければならないし、その量が大量の場合、私は他のことをしてしまいます。こうやってブログなど書いている場合じゃなかろうに。困ったヒトだね。
徹の部屋vol.15 魅惑の(禁断の)ブラジル音楽 終了しました。イヤー楽しかった。自分が聴きたい曲を演奏するということは私にとって珍しいことです。
恒例のご挨拶は↓
ご挨拶
本日はご来場誠にありがとうございました。
いままで14回の徹の部屋は、振り返ってみると「オリジナル」や「即興」や思いがけない組み合わせなどで特徴付けられるような気がします。全曲自作だったり、ダンサーとのセッションだったり、箏がいたり、ベースがたくさんいたり、能の鼓がいたり、五禽戯とだったり、ライブペインティングだったり、ライブ書だったり・・・・。
ところが今回、自分の曲は無し、即興も「アドリブ」の範囲内だしアドリブさえない曲もあります、楽器は「王道」のピアノとベース。いったいどうしちゃったの?
「いつかはやりたい」「その時のために取っておく」ということが3月の出来事以来、変わりました。やりたいことは「今」やっちゃいましょう、と。
ブラジル音楽の、特にジョビンやエドゥ、シコたちの音楽は和音がとても美しい。フランス印象派のような和音や、コードネームに表すことができない和音が何とも言えない感情をうまく表しています。モダンジャズの複雑な和音とは違って馥郁たる香りを感じます。
この30年以上、ブラジル音楽にずいぶん救われてきました。歌の素晴らしさや軽快なリズム、圧倒的なリズムなどの魅力はもちろんありますが、和音の美しさ、それに乗るメロディの美しさを今日は特に演奏してみたいと思っています。私にとって「音楽」の楽しさ、演奏することの楽しさを感じさせてくれる、思い出させてくれるのです。
所詮、ブラジル人ではないし、言葉はわからないし、歌手はいませんが、それが逆に長所になるようにできたら今日は成功でしょう。ともかくやっちゃいます。
ピアニスト石田幹雄さんを紹介できることはとてもうれしいです。札幌のベースアンサンブルで会っただけなのですが、私の直感は彼を見つけました。私が見つけたその彼は、世間のうわさとはかなり違うようですが、そんなことかまいません。世間の私に対する評判だってかなり違うでしょう。他人のことは言えませんよね。また、彼はブラジル音楽を特に聴き続けてきているわけではありませんでした。でもそんなことかまいません。
私も彼も、多忙な夏でしたが、その中でドサッと音源・楽譜を送りました。彼は丁寧に丁寧に扱ってくれました。その方法は、正攻法であり、最短距離であり、それしか無い方法を彼の直感は選び取っているようでした。歌詞に対する取り組みは私を完全に凌駕しています。歳ゆえに諦めてしまったポルトガル語にも真っ直ぐ向かっています。あなうらやまし。
ピアノという楽器はこういう音楽をこう弾く時、とても活きますね~。ここで取り上げるブラジル音楽は西洋音楽の中に入るのでしょう。しかし、ブラジルの大地・自然・風土が元になっていることは確実です。大地からの豊饒な贈り物が西洋音楽を活性化しているとも言えるのだと思います。今日取り上げる音楽はすべて大地や自然や人間や愛に対する賛歌のようです。
本が大量に乗っている私のピアノはすぐ調律が狂います。普段は余り気にしませんが、今回のリハーサルの1ヶ月間、だんだん気持ち悪くなってきました。(そんなわけで引っ越しします。関係ないか・・・)
お楽しみいただけると、うれしいです。オブリガード ジェンチ!              
                                       8月26日 齋藤徹
演奏曲目は↓
しかし実際は第一部のOLHA MARIA は第二部に回しました。ミッキーに「テツさん、思い入れのある曲が第一部に集中しているようですね。ちょっと替えましょう。」という冷静沈着・至極まっとうなご意見に従いました。確かにそのようでした。早く聴きたい=早く演奏したいということでしょうか・・・。勉強になります。
演奏曲目
1:「Da Cor Do Pecado」 Bororo作曲。ふるい曲ですね。神様にさせられてしまったジョアン・ジルベルトと70歳を越えても派手に抜群の歌唱できかせるネイ・マトグロッソがずっと歌い続けています。正反対とも見える二人ですが、実は近いのでしょう。
2:「Se todos Fossen Iguais a Voce」(ジョビン曲、ヴィニシウス・ジ・モラエス詞)外交官、詩人、歌手のヴィニシウスがジョビンを誘い映画「黒いオルフェ」を創った時の曲。「みんな、あなたとおなじだったら」という意味とか。ジョビン追悼コンサートで歌われたときは、ジョビンのことを歌っているように聞こえました。
3:「O Ciume」(カエターノ・ヴェローゾ)嫉妬とか羨望とかの意味だとか。幹雄さんの持ってきた訳だとカエターノがシコに対しての感情のようにも見えてしまいギョッとしました。サンバやショーロではありませんが、一級のポップスになっています。幹雄さんのピアノが似合うこと!
4:「Olha Maria 」(ジョビン、シコ、ヴィニシウス)この三者による唯一の曲だそうです。ミルトン・ナシメントの名唱が耳から離れません。
5:「O Voo Da Mosca」(ジャコー・ド・バンドリン)バンドリンの名人ジャコーの作。本人の録音では教則本のように坦々と弾いていますが、腕自慢の演奏家にかかると実に明るく楽しい音源がいくつもあります。moscaって蚊のことだそうです。そういえば・・・
6:「Carinhoso」(ピシンギーニャ)ショーロの代表的な曲というより、もはやブラジル第二の国歌とも言われたりするようです。弾く度に豊かな気持ちになります。歌はこうでなくちゃ。エリゼッチ・カルドーゾの若いときのライブ録音が最高です。
7:「Choro Bandido」(エドゥ・ロボ、シコ・ブアルキ)初めて聴いたときのショックでした。なんて難しい、なんて美しい。
8:「Beatriz」(エドゥ・ロボ、シコ・ブアルキ)前曲につづいてこのコンビの曲です。この2人が作ると、複雑ですが、美しい、そして、それでしか言えない世界を作り上げます。現代人の心をえぐる気がします。
9:「O Pulser ~ Doideca」(カエターノ)カエターノはコンセプトで攻めてきます。O pulserは3つの音だけです。オーケストラとやっているテイクでは、ウェーベルンの音色旋律のような扱いをしていました。ワンノートサンバもワンノートだけではなく、ピアソラのミケランジェロ70も3つの音だけではありません。対抗できるのはエリントンのCジャムブルースかしらん。(これは2音だけ、でもアドリブがありますよね。)
Doidecaは、12音音楽です。そうシェーンベルクが始めたゲンダイオンガクの方法。一オクターブのなかの音を1回ずつすべてつかいます。それを最後の音から並べ直す「逆行」もカエターノは使っています。そんな2つの曲で自由に展開したいと思います。
第二部
1:「imagina」(ジョビン・シコ)ジョビンのごく初期の作です。ラベルのラ・バルスにも似て優雅なワルツです。今日は石田幹雄さんのピアノソロでお送りします。
2:「falando de amor」(ジョビン)ジョビンが作詞も作曲もしました。「愛の語らい」と和訳されたこともあるそうです。今日はベースソロで。
3:「Quebradihna」(エルネスト・ナザレー)ナザレーは館野泉さんなどクラシックのピアニストもよく取り上げる作曲家です。優雅なメロディ。ショーロのゆったりした曲です。
4:「Samba em Preludio」(ヴィニシウス・ジ・モラエス、バーデン・パウエル)ブラジルの曲がみんなジョビンやエドゥのようだったら、それはそれで大変かも知れません。簡単にみんなが歌う歌というのも大事な要素なのでしょう。単純かというと,結構複雑なのですが、こういう曲もわたしにとって大好きなブラジル音楽です。
5:「Espinha De Bacalhou 鱈の骨」(アラウージョ)ショーロです。ショーロはもともと「泣く」という意味らしいですが、ここでは演奏性がとても高い(難しい)です。とても楽しい曲です。
6:「Desvairada」(ガロート)ガロートはボサノバ以前のギタリストです。感覚はとても新しく楽しいです。この曲も難しーーー。日本の夏では、バッハを練習する気になれません。そんな時はこういうショーロが良いのです。
7:「Anos Duourados」(ジョビン・シコ)黄金の日々とも訳されます。この豊かで楽しい感じは何にもたとえようがありません。感謝。
8:「Lamento No Morro」(ジョビン・ヴィニシウス)「黒いオルフェ」の時の曲。最後は、力強いサンバで締めたいと思います。
アンコール Travessia ( Milton )
徹の部屋の最大のすばらしいところは、何と言ってもお客様です。その質の高さと言ったらちょっと無いですね。3年かけてやってきた最大の成果でしょう。この日もさまざまなジャンルで世の中と戦っているオトナが驟雨にもかかわらず大勢いらしてくれました。感謝です。
ミッキー、もとい、石田幹雄さんはなんとほとんど暗譜しているではありませんか!!
これには頭が下がりました。わたしはほとんど譜面を開いて演奏しました。歌詞の把握は私の100倍。ネイ・マトグロッソがなぜ、あの部分で音を延ばすか、など説明してくれました。これからどうなっていくのか楽しみですね。そうそう10月のミッシェル・ニンの即興ツアー中、エアジンでゲストで弾いてもらいます。物欲も,贅肉も削ぎ落とした幹雄さんは私の目標です。
なんだかミッキーにすこぶる合っている曲「O Ciume」では、カエターノが、ある録音で訳のわからないような誇張したヴィブラートで歌っているのをそのままトレモロで表していました。これには私もマイキもニンマリ。
私的にいうと、この会は、今月誕生日だったマイキに何も気の利いたものを上げられなかった代わりのバースデイプレゼントでした。
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