即興に関するよしなしごと(12)

MYさんのコメントの返事を兼ねて、ヨーロッパ(主にフランス)での即興音楽と教育の話を書きます。日本との差も書いてみます。

フランスでは、パフォーミングアート関係者には、アンテルミッタンという保険制度があって、一定期間に一定の仕事(リハーサルを含む)をしていることが確認されれば、毎月1000ユーロが受け取れます。1000ユーロは現在のレートだと11万円強です。これだけあれば、ミュージシャンとしての「誇り」が保てますね。一般市民の税金をもらっている、ということでもなく、演奏の仕事をするたびに、ギャラの何割も保険に収めるのです。私のような外国人が仕事をしても同じです。今年はフランスで2週間ミッチリ仕事をしましたので、アンテルミッタンから加入の書類が東京に届きました。

最低限のお金がないと、まず、楽器、身体、気持ちの維持ができません。さらには、研究や勉強、練習、本を読んだり映画を見たり、旅をしたり、ゆっくり考えて試したり、などは遠い夢。バイトに時間を取られ、自分が音楽をやっているという意識まで保てません。たとえ、何とかお金と交換できたとしても「売れる」ものをやり続けなければならなかったりします。

ドミニク・リピコーさんというミュージックアクションのプロデューサー(20年以上続く即興音楽・現代音楽のフェスティバル)は「音楽はパブリック・サービス」だと言い切ります。公が支えるべきものだというわけです。その分、しっかりやってくれ、という約束になります。ミュージックアクションの力で私も多くの活動を支えてもらいました。

アンヌ・モンタロンさんがラジオ・フランスで、即興音楽の番組を続けています。現在は、ネットで音や映像を聴取することができます。その番組も存亡の危機の時、あっという間に署名運動が起き、持続しています。前述のミュージックアクションも昨年(2009年)キャンセルになりましたが、署名運動が起き、今年は復活し、私も演奏できました。

日本との差は当分(決して?)埋まるべくもないでしょう。

この写真は2001年のミュージックアクションのワンシーン。メインステージでは、ヨーロッパそして世界からのプロミュージシャンが即興音楽・現代音楽をやっていますが、この部屋では子供達が即興演奏をしていました。多くの聴衆がつめかけ大変盛り上がっていました。小学生から中学生くらいでした。年長になってくると、だんだん「プロ」がやっている感じに似てくるのが、ちょっと残念?に思うくらい、年少の子供達のインプロは楽しかった。

地域ごとに即興を教えるセンターがあるということでした。私がこのフェスティバル企画でワークショップをやったときにも、地元の音楽教師が参加していました。

La Fanfare de la Touffeと言う活動もおもしろいです。http://lafanfaredelatouffe.free.fr/presentation.html 80台の中古楽器を車に積んで、各地をまわり、子供達・初心者にブラスを吹かせて、セッションするという企画。街を練り歩き、時にはマクドナルドなどに入って吹きまくるのです。今年のドイツツアーは、ファブリス・シャルルが中心になって、来年招聘するミッシェルとニンがソリストという構成でした。http://www.dailymotion.com/video/x58vc5_fanfare-de-la-touffe-festive-de-pri_music学校まわりをして、空き日にライブをする。もちろん、ドイツの公のお金が元になっていました。

役者・演出家ミッシェル・マチューさんとロデスで共演したパフォーマンスでは、街が全面的に協力していました。マチューさんはIREA(即興に関する交換と研究する組織の代表です。ドネダもニンも参加しているトゥールーズの団体。 http://irea.free.fr )アントナン・アルトーを特集した詩のフェスティバルで、アルトーが収監されていた精神病院跡地からセッションが始まり、聴衆と一緒に街中を移動してパフォーマンスをしました。この間、この地域の道路は車両通行止めです。病院~教会~島と移動。私自身とてもワクワクしました。(教会でのセッションが「Spring Road’01」(シザーズレーベル)に収録されています。)

即興に対する考え方・とりまく状況全体が今の日本とは大きく違います。
友人のバイオリニストで、バプティスト教会牧師の谷本仰さんhttp://blog.livedoor.jp/aogoomuzik/は小倉を中心にタンゴ・即興演奏、演劇音楽をしつつ、ホームレス支援の活動も続け、音楽療法士の資格も持ちなどなど、八面六臂の活動をしています。また若尾祐・久美さんを中心にした日本即興音楽学会http://jasmim.net/があり、先日スカイプでのインタビューを受けました。

いろいろなことが始まりつつあるという状態のようです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です