ロマの恩恵

世界中のヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの奏者達は、ブラジルやロマ(ジプシー)に大いにお世話になっています。何だか意外かもしれませんが、事実です。ブラジルの国名の由来である パウ・ブラジル(ブラジルの樹・赤い樹)はフェルナンブーコという種の樹のことです。フェルナンブーコ州という州も存在しています。そしてほとんどの楽弓はフェルナンブーコを使っているのです。堅くて質が良い。ところが、お金に目のくらんだ楽器商の伐採で絶滅危惧種になってしまい、2007年ワシントン条約に加えられました。日本のメーカーが相当量を切って持ってきてしまったと聞きます

1540年にポルトガル人によって報告されたというフェルナンブーコ(日本ではペルナンブーコとも言うようです)。そう、「いよ〜くにがみえる」(1492年)のアメリカ発見?のすぐ後のこと。日本でもザビエルのころ(いごよくつたわるキリスト教、1549年)。

ロマに関しては、私がやっとの思いで求めた2本の弓は、いずれも、ロマ経由で日本に(荻窪に)来ました。スイス在住のOさんが仲買です。すべてが現金払いということで私も紆余曲折して5年かかりで手に入れました。それまでそういうものは見たこともなかった弓でした。なんせ短いのです。アンチ・アカデミックの私としては、何の問題もございませんでした。短くてもなんでもスゲー音がするわけで、それ以外のリアリティはありようがない。

ヴァイオリン属の楽器・弓はロマが仕切っているということは事実のようです。その話はバール・フィリップスさんも言っていました。

その後もOさん経由でうん十年前のガット弦を手に入れることが出来たし、私の弓よりもっと短い超名弓とか見ることができました。(現在岐阜の奏者が所有しています。)

ラティーナ誌は毎号ところどころに興味深い記事が載ります。岸和田さんのブラジルもの、ラテンアメリカの政治もの、それに加え最近、向風三郎さんのフランスものがとっても面白いですね。フランス語が読めないので、情報がとぼしいフランス語圏の音楽について「あ、そうだったのか」という合点が続いています。

ジャンゴ・ラインハルトがジャンゴ・レナールだよ、という指摘も三郎さんの情報です。生誕100年のジャンゴ記念でのCDを手に入れました(↑)。大変楽しいです。フェレ兄弟の演奏は20年くらい前にトリスターノをやっているジプシーギターがいるよ、という話題で聴いていました。そのフェレ兄弟が中心になって、一人一人ギタリストが増えていって最後には100人の合奏ででジャンゴの『マイナースウィング』を弾くのです。この曲だけは映像も付いていました。イヤ楽しい、楽しいなんのって。フェレ兄弟のお父さんはジャンゴの代役もやっていたそうです。その子供の世代は、メシアンに師事したり、ザッパと交流を持ったり、ロマの底力をみるような活動をしていたということです。日本では想像だにできない領域です。これはアメリカのジャズでも決してあり得ない状況でしょう。

このCDではラ・マルセイエーズも演奏しています。フランスの国歌です。その歌詞は血塗られるような表現満載。戦争中日本では、この歌を暁星学園が守ったというドキュメントを見たことがあります。そういえば井野信義さん(暁星出身)はラ・マルセイエーズをもちろん覚えていて、酔ってご機嫌になると、時々歌ってくれます。フランスの飲み屋で歌ったところ、店中が唱和して大合唱になったという話もしてくれました。トニー・ガトリフ監督「僕のスウィング」もこだましてきます。

事務と歯医者に忙殺されている日の豊かな時間でした。

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