オンバク・ヒタム公演が終わって一週間。ずいぶん昔のことのようにも思えます。ここで何が起こったのか、をしっかり、じっくり見極めないといけないわけです。しっかり見極めた過去は、未来に直通し、さらには、過去が未来によって作り替えられることもあるわけです。ゆっくりと確実にやっていこうと思います。
少し、こぼれ話。
↑の写真は、ロビーでのお茶・野菜の直売です。泯さんのところで作ったもので、あっという間に完売だったそうです。手摘みのお茶は本当においしいです。そしてスタッフは、きれいに片付けた後、全員、ホールで鑑賞。さすが。
これは、コントラバストリオが使っている羊のガット弦の輸入をしてくれているムジカ・アンティーカ・湘南http://coastaltrading.biz/の野村さんの差し入れ。その名も「でかまん」。本当にデカいです。茅ヶ崎あたりで有名なお菓子。古楽の演奏家を顧客にしているお店ですから、我々のような使用法・音楽・舞台は、ずいぶん遠いのでしょうが、ポレポレ坐の時もわざわざ茅ヶ崎から来てくれました。学生の頃、ベースを嗜んでいたということです。これも嬉しい話。お礼に幡ヶ谷名物「こがねだんご(古賀政男ゆかりの)」をお送りしました。
開始早々にギャーと叫んだ赤ちゃんは、博多の画廊で知り合ったW・Hさんの子供です。お父さんはパーカッショニスト。travessiaのデザインをやってもらっています。そして箏の小林真由子さん(舞台上手の髪の長い奏者)は11月出産予定。あと少しで生まれる胎児はずっとあの波の中にいたわけですね。しかも、五人目だそうです。立派!! 私の娘がはじめてお腹の中で動いたのは、セシル・テイラーのレコードを聴いていた時でした。また、幼少の頃が、私の韓国蜜月時代だったからか、この公演もずいぶん喜んでくれました。
本日はご来場誠にありがとうございました。
オンバク・ヒタムの成り立ち(チラシに加筆しました)
きっかけは、西表島でした。浜辺でCD「パナリ」を録音した時、この島が台北より南、ソウルより西に位置している地図を見ました。これは「ヤマト」ではないな、と直感し、島を取り巻く海流をあらてめて眺めました。親潮となって四国、紀伊半島を流れる黒潮とは別に、インドネシアに始まり、琉球弧を通った後、九州の西に別れ、朝鮮半島に流れ、日本列島の日本海側へ、最後には稚内へたどり着く「もう一つの黒潮」の文化圏を想像しました。
マレー、琉球、韓国の表現者とのつき合いもそれぞれ深まり、この想像上の文化圏がどこかで深くつながっているのではないか?と思うようになりました。そしてそれは、地球と人間を深く傷つけ、破綻してしまった経済効率最優先の「東京中心文化圏」に対抗できるものではないか?地方?東京?欧米という流れに対するオルタナティブがここに豊饒としてあるのでは?
そこには、歌と踊りと自然に彩られ、ひとりひとりが、顔や名前のない購買者・消費者以上の存在であることを誇れる生活があり得るのではと夢想したのです。(仏教伝来以前の日本という側面もあるのでは、と最近思うようにもなりました。)
太平洋戦争の大東亜共栄圏に地域的に重なりますが、それは日本全土と日本帝国思想を含んだものでした。欧米文化以外の可能性という面では、論議があるかも知れません。しかし少なくともここには「天皇」はいません。
網野善彦さんの著書で「逆さ日本地図」を見たときに、この地域を地中海のように見て地中海文明のような捉え方ができないものか、と夢想しました。そしてその源には琉球・東南アジアにあるという視点を加えられないものか、と。
積丹半島で育った詩人・吉田一穂さんは詩論「黒潮回帰」を書いています。一穂さんの著作・生き方には、以前から興味を持っていました。とっつきにくさから、ほとんど同好の士には会えませんでしたが、昨年、共演した田中泯さんはご自分の住む場所の名前を一穂さんの著作から付けたり(桃花村)、「古代緑地」というパフォーマンスもやっておられました。
私事ですが、今年、不況によりヨーロッパでの仕事が2〜3ヶ月、急にキャンセルになりました。ポッカリ空いた時間を、オンバク・ヒタムの事を考え、東中野・スペース&カフェ「ポレポレ坐」の協力をいただき、隔月「徹の部屋」というライブを行っています。5月にはコントラバストリオ・ヒツジで、7月には螺鈿隊と共演し、内容を詰めていきました。泯さんの参加、そして箏カルテットとコントラバストリオの合奏となると、ポレポレ坐では空間的な問題があり、座・高円寺を使わせていただくことになり、今日を迎えたという次第です。
偶然にも本日、2009年9月16日、日本の55年体制が終焉を迎えます。価値、基準などが揺れ動いている時、一穂さんのような存在は、指標となります。動かないだけではありません。「情熱は砂をも燃やす」という熱い思いを持った方でした。一穂さんを北斗あるいはキグナスとして、若い世代の演奏家と演奏し、泯さんが踊る、そんな会が今日、様々な方々のお力添えで実現できました。精一杯演奏しようと思います。
齋藤徹
本日のプログラム
休憩無しで約1時間15〜20分の予定です。
旅の道連れです。コントラバスは難破船だったり、天への梯子だったり、
「かいやぐら」真珠海市と一穂さんは漢字をあてはめました。蜃気楼です。遠くインドネシアの祭り、琉球の神事、韓国の歌舞が海上に揺らめいて幻視できるでしょうか。ダンサーは縦横無尽に陸海空を移動しながら何かを探しているようです。
「糸」はグループ糸のために書きました。か細い糸が紡ぐメロディを、「マーチ」がさらっていきます。アラブ・イスラムが海を伝って聞こえてきます。
即興をはさんで、「for ZAI」「オンバク・ヒタム桜鯛Ⅰ・Ⅱ」蛙の合唱か、流木を楽器にして遊ぶアジアの島んちゅ。そこから「オンバク・ヒタム琉球弧Ⅰ」そして、六調へ。
チン(韓国の銅鑼)と小型オルガンに迎えられて韓国へ。東海岸ムソク(シャーマン)のドン、金石出さんに捧げた「ストーンアウト」から何曲かを演奏します。そして再び「舟唄」をうたい日本海側・北海道・稚内まで到達するという海図です。
それぞれの曲が様々な人の想い出を伴っています。
私たちの声が、動きが、届くことを願っています。
出演:
コントラバストリオ・ヒツジ(齋藤徹・瀬尾高志・内山和重): 三人のヒツジ年生まれのベーシストが、ヒツジの腸(ガット)の弦を張り、新しくかつ根源的なコントラバスミュージックを目指す。特殊奏法・特殊調弦なども使い、地を這う低音?空を翔る高次倍音で、祝祭空間を彩る。2009年ポレポレ坐で結成。
齋藤徹(コントラバス・作曲)
瀬尾高志(コントラバス)
http://plaza.rakuten.co.jp/anabiosisofjazz
内山和重(コントラバス)
http://web.mac.com/warisoverifyouwantit/
箏カルテット・螺鈿隊 (市川慎・梶ヶ野亜生・小林真由子・山野安珠美)
http://www.radentai.com/1997年結成。それぞれにソロやグループ活動、数々のコンクール入賞、レコーディング、テレビ出演等、国内外において個人的には既に高い評価を得ている箏奏者4人による、邦楽界新進気鋭のカルテット
市川慎(箏・17絃)
http://www.rhythmzone.net/zan/index.html
梶ヶ野亜生(箏・17絃)
http://13strings.com
小林真由子(箏・17絃)
http://www.mayukoto.com
山野安珠美(箏・17絃)
http://yamanoazumi.net
田中泯(ダンス)
1945生。前衛と伝統の融合を求め日本、世界各地で舞踊、オペラ、美術展、映画に活躍。80年代からC・テイラー、デレック・ベイリーなど、即興の音楽家たちとの共演を開始。85年、山梨県白州町に身体気象農場開設、天地や動植物と共有する生命過程を舞踊の軸とする。96年、舞踊資源研究所を発足。2000年から舞踊団・農事組合法人「とうかそん桃花村」主宰。独舞「赤光」「透体脱落」はじめ、桃花村作品、国際共同制作舞踊も多数発表。2004年から各地の野外で「場踊り」を開始。フランス共和国シュヴァリエ勲章、朝日舞台芸術賞、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞等も受賞 http://www.min-tanaka.com
照明:田中あみ
音響:鳥光浩樹
協力:玉木康晃、玉木千裕、長野由利子、鶴屋弓弦堂、スペース&カフェポレポレ坐、沢井一恵