1年に2〜3回は訪韓して、各地を訪ねたり、録音をしたりした。こちらからもアクションを起こしたいということでやったのが「ユーラシアン・弦打・エコーズ」というプロジェクト。やったこともない、苦手中の苦手、助成金申請も積極的に行い、芸術文化振興基金から助成を得た。本格的なチラシも作り、新聞社をくるめての情宣。韓国から四人も呼んで、三回のコンサート。日本側は、箏5名、ギター、篳篥、笙、オーボエ、そして私。韓国側も含めて、お互いのコミュニケーションはゼロに近い。ただ私のみが細い糸で一人一人と繋がっていただけ。
よくこんな無謀なことができたものだ。守護霊に後を押されていたという話が真実味を帯びる所以だ。初日の神田パンセホールには、他の公演で来日していた金石出さんもアンコールで吹きまくるというサプライズもあった。何をどう演奏したか、覚えていなかったが、昨年機会があって神田のビデオを観た。ゾクゾクしてしまった。(アンコールの写真↓。ソウルでのユーラシアンエコーズコンサートのパンフレット。ハングルの題名では、ユーラシアン・エコーズ 国楽・ジャズコンサートとなっている。)
金石出一族のキム・チョングさんのケンガリは「こんなことがあり得るのか」と共演者・聴衆の目を点にした。カン・ウニルさん(ヘーグム)とホ・ユンジュンさん(アジェン・コムンゴ)が張り合いながら、若さにあふれた、めいっぱいな演奏する。ピリの元一(ウオン・イル)さんは後に映画音楽で大成功し、スタジオも所有しているそうだ。
2006 年のクロス・サウンド現代音楽祭(アラスカ)で特集されたとき、作曲家のイ・ゴニョンさんが私に曲を書いてくれた。韓国国立芸術大学の総長であるイさんと会って、演奏の相談をしたとき、懐かしくカン・ウニルさん、ホ・ユンジュンさんの名前を聞いた。二人とも中堅の実力派演奏家として、信頼され、確固たる地位だそうだ。芸大でも教えている。
千野秀一さんが招聘するパク・チャンスさんからもらったCDRには、パクさんとホ・ユンジュンさんのインプロヴィゼーションが収録されていて、驚くほど堂々としたインプロを繰り広げていた。伝統楽器と西洋楽器のインプロヴィゼーションでは、手数や特殊奏法でごまかしたりすることがよくみられるが、ここでユンジュンさんは深く、どっしりとピアノの音を受け止め自信にみなぎる演奏をしていた。本当に順当に成長していったのだな、と思ってジーンとしてしまった。