ギャラリー椿での演奏終了しました。入りきれないほどの聴衆は、小林裕児さんが何を企んでいるのかを楽しみに来ています。初めてやったのはギャラリー椿が地下だった時。ライブペインティング始めたばかりで、少し音楽のリクエストがあったような気がします。その後、上村なおかさん、バール・フィリップスさん、ジャン・サスポータスさん、オリヴィエ・マヌーリさん、同じ美術家の石井博康さん、瀬辺佳子さん、飛び入りで武元加寿子さん、とゲストを交えいろいろこの画廊で演奏をしてきました。
寺山修司「毛皮のマリー」で美輪明宏さんが「そういう蝶の標本なら、ギャラリー椿さんでやってもらいなさい」(はっきり覚えていないが・・・)という台詞がありました。そうか、日本にサブカルチャーが芽生えた頃から続けてきた画廊なのだなと改めて思います。(ちなみに、この11月俳優座「毛皮のマリー」では、工藤丈輝が出演予定だそうです。)銀座のギャラリー悠玄といい、椿といい、様々な歴史をもつ空間が残っていることは、この時代とても大事なことでしょう。
今回はライブペインティングでなく、描き上がっている作品に作曲をして、それを演奏すると言う試みでした。佐藤佳子さん(ヴィオラ)と西陽子さん(箏・17 絃)に共演をお願いしました。ヴァイオリンとチェロが「太陽」だとすると、ヴィオラとコントラバスは謂わば「月」。とても相性が良い楽器です。シューベルト「鱒」をやるときもヴィオラを意識して演奏すると良い結果がでます。数住岸子さんに習い、ベルギーに長くいた佐藤さんはナイスキャラで、オープンな心の持ち主です。私が今井和雄とマンスリーで完全即興をやっていたとき何回も聴きに来てくれていました。いわば「音楽」になることを避ける演奏ですので、こういうものの興味があるクラシック系の人が現れたのだなと感心しました。ベルギー時代の仲間は、フレッド・バン・ホーフさんのクラスに出ていたりするそうです。
西陽子さんは古いつきあいです。koto vortexというグループを作っていたころ委嘱されて「stone out」を書きました。その頃は即興演奏に一番懐疑的だったのですが、それは真摯に音へ向かう姿勢の現れのようでした。その後、高橋悠治さんと長く演奏したことで大きく飛躍したように思います。夏のソロリサイタルでは、悠治さんと私に新曲を委嘱しました。私は高田和子さん追悼の曲「ombak hitam sakuradai」を書きました。
20 日ほど前に譜面を送っておきましたが、それこそ「育ってきた環境がちがうから、すれ違いは否めない」わけで私のコトバもいくつか伝わりません。三ページほどビッチリ書いてある曲でも、私にとっては「アドリブ」とひとこと書いてあるところが一番大事なわけです。演奏とは曲の再現だと教育され、数々の仕事をこなし、それなりにやってきた人には、頭では分かっても、なかなか理解できないことかもしれません。即興演奏は、既存の曲の対立項でも破壊でも見せ物でもないことを分かるまでは時間と場数が必要でしょう。
彼女たちの良さを引き出すのが私の仕事ですからいろいろと工夫を施しました。本番は、聴衆、小林さん、ギャラリー、大変喜んでもらいました。とても嬉しいことです。メロディやリズムがはっきりしていたり、そもそもの動機の絵の本物があるわけですから、間口の広いものになれたのだと思います。それが今回の小林さんの教えなのかもしれません。(個展期間中ライブ録音を会場で流す予定です。)