ヨーロッパの影 南米の影

オリヴィエは何人かの大金持ち演奏家と演奏したことがあるという。一人はベルギーのヴァイオリン奏者。準レギュラーで演奏している。彼の父はもともとアカデミックな世界で生きていた。(即ち貧乏しながら学問を追究していた。)第二次世界大戦が起こる。ユダヤ人だった彼の父親(祖父にあたる)が強制収容所に収容される。そこでナチから交渉があった。お金を用意すれば釈放してやるという。学問を捨てて銀行業をゼロから始めた。必死になって働きもうすぐ約束の額に達すると言うときに父親は亡くなってしまった。銀行業は成功し、息子が生まれ、ガルネリを所有してピアソラを弾いているという。

オリヴィエの長年の共演ピアニスト、エンリケ・パスクアルさんはウルグアイ生まれ、最近亡くなってしまった。ほとんどウルグアイ時代のことはしゃべらなかったそうだ。ある時、軍事的に非常事態だったときに、逃げる方法がなかった。そこで助けてくれたのがヴィニシウス・ジ・モラエス。ブラジルの外交官だったこの稀代の詩人が音楽仲間の彼を自分の運転手に仕立てて、外交官特権で国境を越えたという。

音楽がアウシュビッツのために使われたと言うことで「音楽への憎しみ」を書いたパスカル・キニャール、収容所で「時の終わりのカルテット」を書いたメシアン、牢獄で多く作曲したユン・イサン。素材として音楽を消費している今の日本。歌が生まれる時はまだ遠いのか?

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