ピアソラのリズム

3・ 3・2のリズム /○・・○・・○・(○がアクセント)/ がピアソラのリズムの特徴と言われる。それに異論はないし、現在世界中のほとんごのタンゴ楽団がこのリズムを多用している。これをピアソラが考案した新しいリズムと捉えるのではなく、草原のミロンガの2拍子を8ビートで刻んだと捉えると見えてくるものが多い。(中南米で広くこのビートが存在していることは忘れてはいけないし、3と2の組み合わせで多くのリズムを解くことができる。)

彼が考案したのではなく、タンゴのより昔のリズムを細かく割った(現代の忙しい生活リズムに合わせた)と捉える。だから過去にも未来にも繋がる。「伝統から盗まないで、いったいどこから盗むのか?」とピカソが言ったそうだ。ピカソのような天才にしてそうなのだ。自分だけの力で創作することは殆どムリ。気負った表現者達が若死にしてきた例をいくつも知っている。

8 ビートで刻んだピアソラのリズムは、ピアソラのヨーロッパ時代・ロックに近づいた時代に顕著だったのは自然の成り行きだろう。勢いに乗って先へ先へと行くピアソラ自身の性格とも相まって進んでいくのだが、元がミロンガなのだから、そのままずっとは続かない。出自もとへ帰る方向へ強引に導いたのがジュンバだった。プグリエーセのジュンバだ。その2ビートはこれ以上行きようがないと言う意味で究極の2ビートだ。

キューバ系のミュージシャンと燃え上がったアメリカン・クラーベ盤「タンゴ・アパショナード」ではピアソラの3・3・2のリズムが中南米音楽としてひとつの納得を得た。同じレーベルの「ラ・カモーラ」などからピアソラのジュンバ使用が顕著になっていくのは偶然ではない。先祖返りなのか。プロデューサー/キップ・ハンラハンの先見か。

初期作品からずっとピアソラ作品の特徴だったトゥファイブの和音進行、ディミニッシュの半音階移動、7thの音をルートにするなどの「モダン」なソフィスティケーションをせずに、ワンコードでジュンバを高らかに打ち鳴らした。それをピアソラグループ最後のピアニスト/ヘラルド・ガンディーニ(現代音楽系)は、前任者パブロ・シーグレル(ジャズ系)よりも理解していた。

ピアソラ・ミルバの日本公演の最終日に、どういう流れだったか、突然「本格的な」タンゴの展開になった。当時飽和状態だったキンテートのメンバーが一人ずつ抜けていった。ピアノ・ヴァイオリン・ベースの順だったように記憶している(マルビチーノは最後まで残った)。ピアソラはずっとタンゴだったのだ。
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