五井輝 舞踏公演

引き続きダンスの仕事。五井輝さんの舞踏公演。昨今、「~でないものへ」のようなことが盛んに行われている。例えば、ジャズを離れて、とか現代音楽を離れて、とかモダンダンスを離れてとか・・・しかしこの公演はザ・舞踏とでもいえるようなものだ。何のてらいもなく舞踏を「する」。いやそんなことを考えたことすらないだろう。一寸のブレもないのだ。そしてそこにいろいろなものが見えてくる。貴重な体験だ。ご本人も飯能の先の稽古場で昔からの舞台装置や衣装に囲まれてじっと踊りを思索し作り上げていく。前回の公演「音江山」が3年前(舞踊批評家大賞受賞、これもお手伝いさせていただいた。)だから、本当に丁寧な物作りと言える。次々と「こなす」ように流れていく私の仕事とは何なのだろう?と突きつけられる。

「音楽家は一生で一つの歌が歌えればいい」と思ったのは、珍島でシャーマン金大禮さんの歌を聴いたときだ。ポーランドのタデウシュ・カントールは生涯で3~4つの演目の演劇しかしなかった。この銅板はいついつの、この金鳥の絵はいついつの、この布団はいついつの、と奥様が公演後、遠くを見るようにお話ししてくれた。愛情と思い出がしみ込んだ舞台には何とも言えないあたたかな雰囲気が満ちる。ベースの音が良かったよ、ビックリした、と普段あまり褒めない娘が言ったのは、きっとそんな効果なのだろう。公演とはいろいろな人々の思いが合わさって出来ていく。それを仕切る主役の動機の強さをつくづく思った。

今回も、故郷北海道での彼の原風景が展開されていく。時に宮沢賢治や寺山修司の世界がかいま見える。やはり北の世界だ。最後のシーンで五井さんが着ている花嫁のような衣装は元藤あき子さんと土方巽さんの遺品だそうだ。そして今日10月19日は元藤さんの命日。公演は明日(20日)まで続きます。

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