フレッド5日目6日目と泣かせるメール

フレッド5日目6日目と泣かせるメール

エアジンではフレッド待望の沢井一恵さんとの共演。ミッシェルからもニンからも随分言われているようでフレッドも気合いが入っている。冷たい雨が降るあいにくの天候。しかし北海道からも聴衆が駆けつけ、少数だったけれど熱い客席。まずデュオ二組、休憩を挟んでトリオでと言う構成。沢井一恵さんは没後10年になるご主人(沢井忠夫さん)の特集テレビ番組の収録をいそいで終えて駆けつけてくれたのだ。心中いかばかりか。私はご主人が1回目にくも膜下で倒れたとき、一恵さんと石垣島でライブをやっていた。それぞれがそれぞれの願いで一つのライブが成り立っている。

ピアノとの相性がいつも問題になる箏、17絃もフレッドのプリペアードピアノでは問題外。あらゆる手を使うフレッドに一恵さんも真正面からぶつかっていく、なかなか見応えのあるデュオだった。一恵さんがここまでのめり込むのも久しぶりに見る。こういうときに感じるのは、何者か巨大なものが、一恵さんの身体を借りて演奏しているという印象だ。後半のトリオも一瞬の隙もない緊張感のある音楽的に良いものだった。

ところがこのプリペアードでの熱演が、エアジンのピアノに悪影響を与えてしまった。ここのピアノはTさんという調律師が長年かけて育ててきたもの。そうでなくてもジャズライブハウスのピアノの維持は本当に大変なこと。私がフランスで共演したパリ(メゾン・ド・ジャポン、ヤマハのグランド)ポアチエ(カレ・ブル、スタインウエイのフルコン)は、ピアノに関してかなりうるさそうな場所だった。そこで何の問題もなかったので、私も油断していた。ライブハウスで長年使っているピアノは酷使に耐えながらなんとか維持している状態なのだ。そういうピアノにあり得ないプリペアードや内部奏法はきつかった。

関西で楽しくやっているフレッドを尻目に、何としたものか、お金で解決するのかどうかと対策を練っていたが、Tさんから心温まるメールをいただき、救われた。「徹ちゃんは何も気にしないで下さい。音楽の可能性を求めて一緒にやられた訳だから仕方がありません。(中略) 徹ちゃんはエアジンのピアノの事は心配しないで下さい。僕がなんとか修理しますので。(中略) これからもホットで素晴らしいライブを!」

ん~~~泣かせます。こういう方々の日々の努力の上に演奏が成り立っていることをあらためて気づかせてくれました。私達は音でお返しするしかありません。本当に本当にありがとうございました。

翌日の門天ホールのピアノは、成り立ちから多くの意味が込められているので、最初から内部奏法・プリペアード無しということになった。たった2日で全く違うアプローチ。二組のデュオという編成だったので、それも影響する。会場も満員の熱気。一組目のデュオ(黒田京子・山口とも)が50分演奏した後の空間は当然ながら全く違う。私はエアジンのピアノのことが頭に張り付いていたが、演奏時はすべて忘れることにして、ハイテンション状態のまま45分突っ走った。久しぶりに随分弓の毛を切った。張り替えに行った弓屋さんに「めずらしいね~」を皮肉を言われた。

打ち上げで映像作家でコンピューター音楽をやるフィリップ・シャトラン(ドニク・ラズローとミッシェル・ドネダのパリ町中でのゲリラ演奏の映像作品もある)、チェコからの音楽ジャーナリスト Petr Vrba さん(彼の雑誌には高柳昌行とブーレーズとトマス・レンとリゲティとが同居している)と日本のNさんYさんMさんらと話をしている。こういう何ということない会話からいろいろなことが広がっていけばいい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です