ナイス笑顔の二人のオヤジ
沢井一恵さんがベニャート・アチアリ(フランス・バスクの歌手)について「ああいう笑顔のできる大人の男性は日本にいないね、」と言って「そうそう、モリジュン(森田純一)がいたわね」。ジャバラレーベル代表で、奄美の島唄のCDをもう30枚以上リリースしている。前回書いた石垣島でのライブ録音「八重山游行」はジャバラレコードの記念すべき第1作目だった。私はその後も、「アウセンシャス」(ピアソラ作品集)「ペイガンヒム」(多人種によるセッション)「コントラバヘアンド」(ソロ)などを出してもらっている。そのモリジュンがちゃんと前記エアジンセッションには顔を出しているのだ。
私にはもう一人思い当たる人がいる。高場将美さんだ。彼とタンゴの演奏会があった。アップリンクファクトリー。ドイツ映画「12のタンゴ・ブレノスアイレスへの往復切符」という映画とライブ。2002年のコラリート(預金封鎖)をきっかけにした様々なタンゴにまつわる人々の物語だ。日本でもゆくゆくはコラリートがあるのではないかという話もある。ある日突然預金がゼロになる。何の保証もない。政府は500年待てと言う。しかたなく外国に出稼ぎに行く。一月にトゥールーズであったアルゼンチン人親子の照明エンジニアもまさにそうなのだ。身近に感じることができた。「もともと移民の国だし、タンゴにはそういう根無しの部分がある」と高場さんは解説の中でサラッと大事なことを言っている。
高場さんが歌詞を全部訳詞して配布し、オマケに現場でも解説もしてくれる。(実はプログラムに載っているワープロ文字よりも、最初に楽譜と共にいただいた自筆の訳詞がなんともすばらしい。)私にも覚えがあるが、演奏しながら話をするというのはとても辛い作業だ。右脳と左脳を交互に使わなくてはならないからだろう。そんなことも厭わずにギターを弾き、解説もしてくれた。ギターも時々スゴイ音になっている。そして弦を一本切ってしまう。そんなことも関係なく最後まで弾き続ける。かっこいいぜ。予想外の大入りのため、訳詞付きのプログラムが足りなくなってしまった。団塊の世代よりも一世代上だろうか、そういうタンゴファンたちの熱気は並ではなかったが、何と言っても高場さんの音楽へ対するリスペクトが全体の空気を支配している。当たり前のように聴く曲たちが、解説と訳詞と共に全く違う衣装で立ち現れる。名曲というのはそういうものなのだろうか。
歌の峰万里恵さんは、「そんなに気持ちを込めて大丈夫?」と言うほどの感情移入。あまりの正直でまっとうな姿勢に私の娘は「歌に当たってしまった」そうで、しばらくだるくなっていた。
モリジュンと高場さん、この二人のような笑顔のできるオヤジになれるだろうか?