無事初日開けました。セッションハウスでのトラヴェシアセッション。東野祥子のダンス、小林裕児のライブペインティングと二人の音。心配を払拭する満員の観客でした。小林さんが巨大な和紙、100年前の繭を包んでいた紙を会場に貼ると、妙にワサワサした気分になる。何かが始まろうとしている感じだ。こういう雰囲気はとても好き。東野さんは、大胆なダンスと正反対の静かな楽屋。フレッドは、自宅と同じヤマハG5でやりやすくご機嫌。身体とピアノの関係を研究してきただけあって、楽屋でもストレッチや変な格好をしている。小林さんはどんな瞬間もスケッチブックにサラサラと何か描いている。無言の楽屋。私は相変わらず、緊張しない。そこにあったダンス雑誌などをめくる。演奏前に緊張しなくなって久しい。ちょっとは緊張したいものですね。
初対面の即興セッションでは、デュオの場面を作るとやる方もやりやすいし観客もわかりやすい。そのため、第1部はフレッドと私、祥子と私、祥子とフレッドという順番を決める。およそ10~15分のデュオを3つ。小林さんは何をしても良い。フレッドと私がデュオを始めると、そっと祥子、裕児がでてきて祥子の「型どり」をして絵を描く。それが終わると、やおら絵筆を祥子にもたせて彼女が赤の線を描き始める。そこに私がデュオで加わる。音に対する良い反応に私も普段以上に動く。
この辺で小林さんが本格的に始めるかなと思ったがなかなか出てこない。フレッドと祥子のデュオも終わりそうになって、すなわち打ち合わせだと第1部の終わり近くになって小林さんがやおら出てきた。「それまでは出てくる隙がなかった」と後で聞く。ここで事前の打ち合わせが狂い始める。ナイス!ここから始まる。「今・ここ・私」に集中。私はあえて演奏しないことにした。小林さんのヤギができあがって第1部終了。
相手のことが自分なりに理解できてからの第2部はすべてオープン。緊張と弛緩が自在に往き来する自由な空間が生まれている。集中することと全体を観ることが同時に可能になっている。こういう空間ができればしめたもの。違うジャンルのものが同じ空間で同時に行われるとき、こうならなければイケナイ。お互いがお互いの説明をするのではない。説明をしてしまうと時間が戻ってしまう。常に時間は未来に向かっている。そのあたりが初対面なのにみんなで通じているのは嬉しいものだ。もちろん聴衆も同格。
終演後、多くの聴衆がピアノの回りに集まり、フレッドと一緒にいろいろな音を出す。みんなやりたくなっているのだろう。良い感じだ。演奏家やダンサー,絵描きの工夫・アイディアを観客一人一人が自分にあてはめる。教員は教員で、サラリーマンはサラリーマンで、事務は事務であてはめることができるだろう。そこから何かが始まる。
帰宅後、まだ上気しているフレッドとシコのDVDを観ながら初日開けのお祝いをして、遅く就寝。