少しずつツアーのことを書き始めます。
「ジルベール」と「オーレ」と「バール」
霧のためミラノで1時間待たされ,ニース空港に着いたのは深夜。バール・フィリップスさんが迎えに来てくれている。いつものあの笑顔。ホッとする。昨年、肺を患ったと聞いていたので心配していた。やはり時々でる咳がざらざらしていて呼吸の時にすこし引っかかる音が出ることもある。しかし帰りの運転中も矢継ぎ早に大きな声でいろいろとベース関係の情報交換。「私は弱い人間なんだよ。タバコは止められない。」という。まあまあ大丈夫なのだろう。私もバールも、昨年100歳を迎えた大野一雄さんと同じ誕生日なのだ。長寿の運命と勝手に決める。
プジョー・ビルの彼のお宅におじゃまするのはこれで3回目。楽器を借りることもあって、ツアーの最初と最後をここで過ごすわけだ。(一月後のことなんてまるで想像できない。)1000年前の教会を修復して住んでいる。隣の隣の町はマリア・マグダレーナが亡くなった場所で、奇蹟のよく起こる地域。バールの教会はSainte Philomene(最後から二つめのeは上には左上からの点があります。)を祭ってある。
実在かどうか定かではないがやはり奇蹟を多く残したことで知られる。このあたりはマリア信仰が盛んのようだ。この教会でバリー・ガイとのデュオや、マネリー親子との録音など行われている。最初におじゃました1994年にはバートラム・ツレッキーさん、故吉沢元治さん、溝入敬三さんらベーシストとその家族と一緒、アヴィニヨンのベースフェスの帰りだった。もう13年もたつのか・・・
翌日、早速借り受ける楽器(ジョン・オーレ作)の弦を張り替える。私はミネソタのガムー製の生ガット(tetsu version)を持ってきた。ともかく太いのでE線などはペグの穴に入らない。リッチモンドのISBコンヴェンションの時もお借りしたので先刻承知。工夫して張り替える。ジョン・オーレは明らかに現代の名工だ。シンメトリーを排した数多くの独創的な工夫とその効果が弾く者のココロをグッとつかむ。しかも軽い。メンテックのところでシャルトンさんらと修行したそうだ。フランスの楽器造りの伝統は長く、ひらめきに満ちている。しかもクラシック一辺倒ということは全くなく、バールさんや私の演奏が大好きと来ている。奥が深い? これから一ヶ月よろしくお願いいたします。
バールさんは「二頭のライオン物語」で私と交換した「ジルベール」をこよなく愛してくれている。とても嬉しい。その勇姿はトマスティック社のフェスティバルでのライブDVD「LIVE IN VIENNA BARRE PHILLIPS」DJ-908で観ることができる。また、ECMの新作「the iron stone」Robin Williamson のライナーにジルベールが美しく写っている。(ECMにしては珍しくマイクセッティングまで。)ロビンのケルティック・フォークにバールも楽しそうに付き合っている。春から大都市を回るツアーにも参加するそうだ。二年間私の元にあった楽器がバールに弾かれているのを見るのは、なぜかちょっとドキドキする。東京に置いてきたもう一頭のライオン「バール」も元気に留守番していてほしい。娘が「バール」の前を通るとき必ずパラーンと弾いて通ることにしてくれている。決して忘れてないからね~。それにしても一ヶ月は長い。