松脂 アルシェ201ソロ

楽器本体、弓、弦についで、大事なのが松脂。安価なため私でもいろいろ試すことが出来ます。一つ一つ全く違うキャラクターをもっていて、音作りにはとても大事なのです。何回か発言しましたがベルナーデル製のアルミ缶の松脂が私のファイバリットです。しかし、今や製造中止。ベルナーデルがアルミ缶を止めた時、何かがあったのでしょう。その後、紺や黒の布にはいったベルナーデルの松脂が出ていて、今も評判です。

同じものだろうと思って買ってみたら全く違う!おかしい。また買ってみる、ダメ。また買う、違う。10回は繰り返してみて、試しに全部を比べる。色が全く違う!色が違うと言うことは配合あるいは混合の際の温度が違うと言うことでしょう。これは「詐欺だ」とさえ思いました。ある楽器店で全部出してもらって色を比べました。店員さんも驚くほどの違いでした。不良品でも名前(ブランド)で買ってくれる日本向けに不良品を送っているのか、と思いましたよ、ホントに。色の薄いものの方が良好。しかし違う。

一つだけ、友人の使っていたものが、アルミ缶と同じ音がしました。無理を言って譲っていただきました。すぐに使い切ってしまいました。

アルミ缶のレシピを、日本のアルシェというメーカーが手に入れたのではないかという情報がありました。そしてアルシェが直ぐにアルミ缶を出しました。外見も良く似たものを作るということは、その情報の信憑性を感じました。でも音は違いました。その後、アルシェはチェロ用、コントラバス用、箱入り、アルミ袋入り、とか様々な商品を作りました。勿論全部手に入れ、いろいろな組み合わせで混ぜて試しました。時々良い感じになります。が、やはりまだまだ違いました。

アルミ缶が忘れられない奏者も多いらしく、サザビーズなどオークションで3~4万円とかで落とされることも稀にはあるそうです。また、一時は、非常に多くの人が使っていたので、音楽を止めた人が売りに出したバイオリンケースなどに入ったままのことも有ると聞きます。荻窪の弓屋「T」が、多くの古い松脂を持っています。その中には、グスタフ・ベルナーデルではなくより昔のレオン・ベルナーデルの名前の松脂もありました。まさに垂涎のブツです。金色の缶さえあるのです。

ところが、この夏アルシェ201ソロという松脂が新製品ででました。アルシェさん、やりましたね。やっとアルミ缶に近いものができましたね。おめでとうございます。とてもうれしいです。ここにとどまらずにドンドンやってください。ちゃんと追っかけている奏者はいます。日本でも地道に良いものを作ろうという職人さんがいてくれて本当にうれしいです。快挙だと思います。

松脂で面白い逸話を一つ。バール・フィリップスさんがアルゼンチンでスゴイ松脂を手に入れました。どの松の木から、どの時期に、どの時間で採取して、どの配合で、といろいろ厳しく決めてある方法で作られた完全な手作りのものだったそうです。それを使っていたら、興味を持って試したフェルナンド・グリロさんがドーンとはまってしまって、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、と気が狂ったようになってしまい、見かねたバールさんはあげたそうです。グリロさんは現代音楽コントラバスの先駆者。クセナキスの「セラプス」を献呈された人、現在大活躍のステファノ・スコダニビオの師匠です。変わった人としても有名です。(もっとも、セラプスの初演の時は、これは演奏不可能です、と言ったそうです。)

人を狂わす位、松脂と奏者・楽器・弦・曲の相性があるのです。

こだわり尽くすことと、こだわらずに何でも弾いてしまうこと、は遠いことではなく、同じ事なのでしょう。他のことにも言えそうなことですね。

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