alaska便り9

アンサンブルの本番が始まった。アンカレッジから一時間半車で移動。田舎の芝居小屋(外装がピンク)のようなアーツ・パフォーミングセンターが見えてくる。ドミトリスを始めエリート音楽家が多い人たちのどよめきが聞こえる。自慢じゃないが私は慣れています。どんなところでも大丈夫。考えてみれば、ゲンダイ音楽というものが、エリート層に属している率が高い。入れ墨をしたロッカーやテンガロンハットのカウボーイには無縁の世界。ドイツから指揮者を、日本・ギリシャから演奏家を、韓国、バージニア、から作曲家を、ボストンからマネージャーを、シアトルから録音技師を呼んでいるこの集団は明らかにクセニティス(ギリシャ語でよそ者、アンゲロプロスの「永遠と一日」のキーワードの一つ)だ。

案の定、聴衆は極極極極少ない。このあたりの読みと今後の対策を主催者は大きく感じたはずだ。ちゃんと感じてほしい。ともかく5曲中3曲の世界初演が始まった。韓国の雑誌からは李教授の写った初演写真を送れ、ときているという。聴衆の写らないように配慮した構図。よく外国公演で絶賛とかいうことを聞くが、こういうからくりも多いのだろうか。ジョセリンにもステファンにも何とも言いようのない苦労が続く。ご苦労様です。

李教授は平壌生まれ。家が教会だったため圧迫され朝鮮戦争中にソウルへ移住。音楽を目指し、ドイツに留学、韓国音楽界のトップに上り詰めた。教会の人らしくオープンで差別なく皆に接し、朗らかに笑う。誰にも挨拶を欠かさぬ人格者。韓国で地位のある人はきっと威張っているという想像は崩れた。親しく話しもした。高銀さんをはじめとする詩人のこと、韓国伝統音楽のこと、私が学生の時、読んだものを話すとびっくりされていた。「ユーラシアン・エコーズ」というコンサートをやった話をする。雅楽・邦楽・洋楽に韓国伝統楽器をいれた企画で、私は当時めずらしくエネルギッシュにこの企画に没頭した。

なんと、その時韓国から呼んだ、カン・ウニル、ホ・ユンジュン、ウオン・イルはソウル大で教えているという。カン・ウニルは、李教授の作品のみでコンサートをしたそうだ。ウオン・イルは「風の丘を越えて」(ソピョンジェ 西便制)の音楽をやり大ヒット、大人気だそうだ。「ソピョンジェ」は最近ビデオで観た。

パンソリの苦行をする物語。日本でもヒットした。今の韓流のはしりかな。最後のパンソリは私がよく共演させてもらった安淑善さんが吹き替えをしているという話は聞いていた。よく聴くと完全に安さんの声。ちなみに安さんは人間国宝になり、やはりソウル大で教えているそうだ。みんな当時は若い盛りで打ち上げなどは酒がでる前に歌い出し、踊り出し大騒ぎ。みんな偉くなったな~。文化が健康なのかな。

明日はホームグランド アラスカ大アンカレッジ校だ。聴衆がたくさん集まるとうれしい。

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