こういう「主催者にお任せ」ツアーだと、日常がその主催者の趣味・嗜好に左右される。今回の主催者ステファン、ジョセリン夫妻は二人ともハーバード大学の博士号をもっていて、しかも二人とも人生を楽しむ派だ。今日はインデペンデント・マインという観光地にピクニック。山頂では雪が降っていて熊がいた。
また、(ストレスからくるのかもしれないが、)食べ物、飲み物にうるさくしかも豪快に楽しむ。店の選定から厳しく、だいたい当たる。ビールを造っているレストランも多くビールはうまい。食べ物も量が多く、だいたい美味だがパンと肉中心だと10日たつと飽きる。アジア系のものが食いくなる。それにしても食べる量が違う。一緒になって食べていると胃がもたれて大変だ。(何日か前のステファンの写真をごらんあれ。)そういう楽しむ派の二人だから、細かい現場での処理はかえって大変そうだ。ステファンが立ったままうつらうつらしているのを見た。ご苦労様です。
そのステファンと親しく話していると何と、彼も突発性難聴を十数年前に患ったことがあったのだ。水をたくさん飲んだり、マッサージをしたり、努力してかなり回復したという。希望をみいだす。そうなのだ、音楽家にこの病気は意外に多いのだ。身の回りだけでもかなりいる。3年前にカナダ・フランスツアーをしたグループの尊敬する打楽器奏者も2~3年ものすごい耳鳴りに悩まされたという。ちょうど一緒にツアーをしていた頃だ。彼は最近完治したそうだ。おめでとう。また同じグループのギター奏者もメニエル系の病気ででひどかったがもう慣れたという。
よく使う部分が病んでしまうと言う話もある。親しくしている画家は片目がほとんどだめだという。彼はものすごい細密画を何年も描いていた。キャンバスと20~30センチの距離で一日10時間近く描いていたそうだ。それでもそのころは一年に2~3作しかできなかったという。能の小鼓の奏者はあの強烈な音を耳の間近で聞くのでほとんどの人が難聴、耳鳴りだという。「毎日、夏です。蝉が鳴いてます」なんて明るく言う。
うれしい展開もある。たまたま演奏会の打ち上げで目の前に座った方が、ヴァイオリン奏者で突発性難聴だった。私もちょうど悩んでいる最中だったので、親しくお話をさせていただいた。その上に共演までしてしまった。もちろん「とつなんデュオ」なんて名前は付けなかった。彼女曰く「この病気のことを言うと音楽ができないと思われるのでほとんどカミングアウトしない」ということ。この病気にも世間の差別があるのだ。
松ヤニの話になり、いろいろ話すと、何と彼女は私の垂涎の松ヤニ「グスタブ・ベルナーデルのアルミ缶入り」をほとんど完璧な状態で持っていて、それほど気に入ってないので私にくれるという。こんな幸せはない。素直にうれしい。
もう一缶あればたぶん私のベース人生はカバーできるだろう。どこからかいい話がないかな。